昨年の「M‐1」で決勝に残った3組は、ミルクボーイとかまいたちとぺこぱ。そこにわかりやすいイケメンはいない。彼らに実力もブレーク感もひけをとらない四千頭身も、またしかりだ。

 さらに、草薙航基(宮下草薙)や稲田直樹(アインシュタイン)がピンで引っ張りダコだったりもする。

 特に稲田は、よしもとブサイクランキングで4年連続トップに君臨。昨年には「人志松本のすべらない話」(フジテレビ系)のMVS(Most Valuable すべらない話)を「女装メーク」ネタで獲得し、その顔を自らイラスト化した「いなだま」グッズも大人気だ。「NHK新人お笑い大賞」では、審査員の久本雅美にそのお笑い向きの顔を絶賛されたこともある。
 2月に放送された「おかべろ」(フジテレビ系)では、登場時の反応が「黄色い声援」に変わってきたのではとの指摘に対し、

「ギャー! が減って、黄色い、までは言わなくても黄土色くらいの」

 と、本人も手ごたえ(?)を口にしていた。なお、アインシュタインはこの春から拠点を大阪から東京に移し、全国進出中だ。

 しかし「ブサイクの笑い」にも難しさがある。それは、近年顕著なポリコレ的忖度によって、昔ほどパワーが発揮できないという問題だ。それこそ、ネットニュースの彼らの記事に「右の人、アインシュタインというよりフランケンシュタインですね」というコメントがつけば、そこに「くだらねーんだよ」というたしなめ系のリプがつくという具合である。

 ひとつの世の流れとはいえ、こうした容姿いじりがタブー視される風潮は必ずしも、ブサイク芸人に好都合とは限らない。そんななか、吉本はなぜ、ここへきて、稲田を推すのか。

 そこには、この百年以上も日本の笑いを牽引してきた会社の伝統的精神が見て取れる。それは、容姿のブサイクも言動のブサイクもおもろい個性として許容しあうというものだ。その伝統が今も色濃く引き継がれているのが、60年続く吉本新喜劇。関西を中心にテレビでも放送され、植村花菜のヒット曲「トイレの神様」にも歌われた人気コンテンツである。

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「容姿いじり」には腕がいる