ところで、5月31日放送の「ボクらの時代」(フジテレビ系)は4人の芸人が集まり「薄毛の濃い話」を繰り広げる回だった。志村の思い出も語られるなか、最後に岩尾望(フットボールアワー)がこんな話をした。

「今、人を傷つけない笑いとかっていうのが重宝されるというか、そういう時代になってるじゃないですか。(略)ハゲだからっていうのをいじったらアカンというよりは、われわれこういうちゃんと特訓を受けたプロたちはそれで笑っていただいていいんですけど」

 これに小杉竜一(ブラックマヨネーズ)が「そうそうそう」と呼応して、

「鍛えた人間がやりとりをしている、ハードなアクションシーンと思ってもらえればね。一般の人がポジティブに持っていくのはなかなか難しいかもしれんけど、薄毛の芸人とかタレントさんのことでできそうなことがあったらやっていけば、気持ち的にも前向きになるかもしれんしね」

 たしかに、容姿のコンプレックスも芸によって笑いに昇華されれば、それがプラスに働くこともあるわけだ。岩尾も小杉も吉本の所属だが、この会社は長年の伝統でその効用にそれなりの自信を持っているのだろう。だからこそ、当然のようにして、稲田を推すのだ。

 約40年前の漫才ブームでは、関西弁をお笑いにおける公用語みたいなかたちで広めてみせた吉本。今回は笑いにとっての容姿、その多様なあり方を世に問いかけているようにも思える。この「実験」を興味深く見守りたい。

宝泉薫(ほうせん・かおる)/1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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