研究のモデルでこれらは「レッドコンプレックス(コンプレックスは「集合体」の意)」と呼ばれています。歯周病菌の細菌叢を病原性ごとに6つのグループに分けたときに、ピラミッドの頂点に位置し、そこが赤色で示されているためです。読者の皆さんには、レッドカードを受けたたちの悪い菌という意味で、「悪玉三兄弟」と覚えていただくといいでしょう。

 悪玉三兄弟の中でもP.g(ピージー)菌は特に有名で、本書の中でも繰り返し出てきます。歯周病の研究の中でも早くから注目され、高い病原性を持つなど、その生態が詳しく知られています。高血圧や動脈硬化、アルツハイマー病などの全身病にもかかわっている原因菌として知られているのもこのP.g菌です。

 一方で、P.g菌をはじめ歯周病菌が口の中に棲んでいるだけでは歯周病にはなりません。歯周病菌は、ほとんどの人の口に生息しています。そして、どんなに清掃をしても、ゼロにはできません。しかし、誰もが歯周病を発症するわけではありません。

 口の中は700種類以上もの細菌が棲んでおり、腸に次いで細菌の多い場所です。細菌には、からだによい働きをするものもあり、こうした善玉菌が優勢な環境だと歯周病菌の活動は抑え込まれるのです。

 実は歯周病は、(1)口の中の細菌の攻撃力、(2)患者自身の抵抗力、(3)生活習慣(環境)、その他がからみあって起こると考えられています。(1)の攻撃力については、プラークが多いほど悪化しやすくなります。ブラッシングを怠り、プラークが蓄積されると歯周病菌をはじめとした病原菌が膨大になるからです。

 一方、それほどプラークが蓄積していなくても、組織の抵抗力が下がっていると歯周病が悪化しやすくなります。実際、仕事が忙しく睡眠不足が続いたりすると、歯周病が悪化したという経験を持つ人もあると思います。これが(2)の患者自身の抵抗力、に関する典型的なケースです。

 さらに(3)の生活習慣については、ヘビースモーカーの人は歯周病にかかりやすく、歯周病の治療をしてもなかなか改善が見られないことがわかっています(喫煙は歯周病のリスクファクターです)。

 このほか、遺伝的(先天的)な因子が関係している場合もあり、ある種の症候群では重度の歯周病が生じ、若い年齢から進行の速い歯周病が発現したりします。しかし、歯周病は生活習慣病の一つであり、プラークを作りやすい生活環境と強い関係があります。

 このため歯周病治療、予防においては細菌の塊であるプラークを取り除く「プラークコントロール」のほかに、からだを健康に保つことや禁煙、持病(糖尿病など)の管理といったことが大事になってくるわけです。

 さらに近年では、腸と同じように、口の中の細菌の攻撃力を抑え、善玉菌を増やして口の中の抵抗力を高め、歯周病を抑えようという「プロバイオティクス」の考え方も出てきています。

※『続・日本人はこうして歯を失っていく』より

≪著者紹介≫
日本歯周病学会/1958年設立の学術団体。会員総数は11,739名(2020年3月)。会員は大学の歯周病学関連の臨床・基礎講座および開業医、歯科衛生士が主である。厚労省の承認した専門医・認定医、認定歯科衛生士制度を設け、2004年度からはNPO法人として、より公益性の高い活動をめざしている。

日本臨床歯周病学会/1983年に「臨床歯周病談話会」としての発足。現在は、著名な歯周治療の臨床医をはじめ、大半の会員が臨床歯科医師、歯科衛生士からなるユニークな存在の学会。4,772名(2020年3月)の会員を擁し、学術研修会の開催や学会誌の発行、市民フォーラムの開催などの活動をおこない、アジアの臨床歯周病学をリードする。