大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 新型コロナウイルス感染症の治療薬として注目される「レムデシビル」と「アビガン」。新薬が患者さんに使えるようになるには、臨床試験をおこない、承認を受けなければなりません。京都大学医学部特定准教授の大塚篤司医師は、自身が経験した新薬の臨床試験から、新型コロナウイルス感染症治療薬について解説します。

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 今月7日に新型コロナウイルス感染症に対して「レムデシビル」が治療薬として承認されました。レムデシビルは製薬会社である「ギリアド・サイエンシズ」がエボラ出血熱の治療薬として開発を進めてきた医薬品です。今月1日にアメリカの米食品医薬品局(FDA)が新型コロナウイルス感染症の治療薬として緊急使用を認めました。日本では、特例承認という形を使って申請からわずか3日での承認となりました。

 レムデシビルはアメリカの米国立保健研究所(NIH)が発表した第3相臨床試験の結果で、新型コロナウイルスによる肺炎で入院した患者の回復までの期間がプラセボ(偽物の薬)に比べ31%有意に早かったと報告されています(ACTT試験)。

 一般的に新規薬剤の承認は数年から10年以上かかります。NIHのACTT試験の結果が4月29日に発表され、数日で承認されたことから今回は特に異例なことであるのがわかります。

 さて、そもそもどうして新規薬剤の開発には時間がかかるのでしょうか?

 まず薬の候補となる化合物が試験管の中で発見され、その化合物が薬となって人にはじめて投与できるようになる(ファースト・イン・ヒューマン)までに動物などを用いた安全性の試験が数多く必要になります。

 試験管の中や動物の体内での安全性が確認された後、国の機関である医薬品医療機器総合機構(PMDA、アメリカFDAの日本版)で審査があります。本当に人に投与しても大丈夫なのか、しっかり検討されるわけです。

 PMDAの許可が下りれば第1相臨床試験がはじまります。第1相臨床試験では少人数(数人から十数人程度)の「健康な人」を対象に新しい薬の安全性を確認します。人の体に許容できない副作用は起きないのか、安全な薬の投与量はどれくらいかをみるわけです。

 ここで安全性と投与量が確認されれば、第2相臨床試験へと進みます。第2相臨床試験ではじめて、少人数の「患者さん」に新規薬剤を投与することができます。ここでも患者さんに大きな副作用が起きないかをチェックし、また、患者さんに最適な薬の投与量を決定します。少人数ですが、薬の効果もみます。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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