第3相臨床試験の結果が公表されたとき、世界中のがん治療医は驚きました。なんとIDO-1阻害剤は併用効果が全くなかったのです。免疫チェックポイント阻害剤を単独で使った患者さんと比較して、IDO-1阻害剤の上乗せ効果はゼロでした。研究者らは、一部の患者さんに効果があるのかもしれないと考え、細かな分類のもと再検討しましたが結果は同じでした。IDO-1阻害剤が効いているというのは、私たちの期待からくる錯覚と思い込みだったのです。

 第3相臨床試験の結果が出て、IDO-1阻害剤の併用療法は世界中でストップされました。効果が出なかったのは残念ですし、患者さんによってはIDO-1阻害剤の副作用だけが出てしまった人がいたのも心苦しい記憶としていまも忘れられません。

 新型コロナウイルス感染症に対して、私もアビガンが効いてほしいと願っている一人です。

 しかし、これまでの新薬開発の経験から、印象だけで早急に結論づけてはいけないと思っています。

 書類手続きなど簡略化できるところがあればレムデシビルの特例承認のように、後に提出するような形をとるのはよいかもしれません。

 しかし、実際に効果があるかどうかを検討する試験までは省略してはいけません。アビガンは妊婦または妊娠している可能性のある女性に投与するとおなかの赤ちゃんに影響する可能性があります。

 マスコミからはアビガンの早期承認を求める声が多く聞こえてきます。しかしこれは間違ったメッセージです。アビガンの早期承認を求めるのではなく、アビガンの治療効果を早期に確認できるよう態勢強化を求めることが重要だと思います。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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