阿部の場合は、父親が掛布雅之氏と高校時代のチームメートで、子供の頃から掛布氏に憧れていたことで知られるが、それだけの理由で阪神ファンが“敵に塩を送った”とは思えない。伝統の一戦にふさわしく、藤川がはなむけの全球直球勝負で舞台を盛り上げたことも含めて、去り行くライバルチームの主砲に自然発生的にエールを送ったと解釈できる。阿部にとっても、「本当に感動しました」という甲子園での大声援は、一生の思い出になったことだろう。

 03年の優勝時に13勝を挙げた伊良部秀輝氏が11年7月に死去した際にも、在籍期間はわずか2年だったにもかかわらず、ロサンゼルス近郊の自宅前に置かれた献花台に「阪神タイガース有志一同」と記された献花や阪神の帽子が供えられた。伊良部氏がお膝元の兵庫県尼崎市出身で、子供の頃から阪神ファンだったことに加え、前出の優勝決定の際に「ヤンキース時代の2度の世界一よりうれしい」とコメントしたことなどに対する感謝の気持ちからと推測されるが、海の向こうでも阪神ファンの良さが発揮された一例として記憶されている。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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