巨人で思い出されるのが、03年に“読売グループ内の人事異動”という不可解な理由で解任された原辰徳監督の“退任セレモニー”が甲子園で行われたことだ。

 東京ドームの最終戦で巨人としてのセレモニーが行われず、原監督がファンの前で挨拶する機会を奪われたことを遺憾に思った星野仙一監督が「花束ひとつでいいから、渡す時間をつくってくれ」と球団社長に掛け合い、実現したもの。「くじけるな。勉強して、もう一度戻ってこい」と激励する星野監督の熱い抱擁に、原監督は感極まって涙ぐんだ。スタンドの虎党も“原コール”を送り、巨人ファンも“ありがとうコール”で応えた。

 実は、前年9月24日、マジック対象の2位・ヤクルトが敗れた結果、リーグ優勝を決めた原監督の胴上げが甲子園で行われたときにも、試合に勝利した阪神ファンが「六甲おろし」を歌い終えるまで胴上げを控えてくれた配慮に敬意を表し、祝福の拍手を送っている。

 18年10月9日の巨人戦でも、退任が決まり、ラスト采配となった高橋由伸監督に対し、虎党からも“由伸コール”が送られた。これは前年10月1日、東京ドームでの最終戦終了後、高橋監督が「阪神ファンの皆様。たくさんの方に足を運んでいただきまして、ありがとうございます」と挨拶したことに対する返礼でもあった。

 阪神ファンにとって、巨人は“最も憎たらしい敵”だが、不遇な目に遭ったり、礼を尽くしてくれた人間には、アンチであっても、優しく手を差し伸べる。ファンの本来あるべき姿と言える。

 昨季限りで現役を引退した阿部慎之助も、阪神ファンに感謝の気持ちを抱いた一人だ。引退発表後の9月24日の阪神戦(甲子園)で9回に代打で登場すると、一塁側や右翼席の阪神ファンが総立ちとなり、拍手と歓声の嵐。左翼席の巨人ファンの“慎之助コール”と一体化した大声援を背に、阿部は藤川球児の高め速球を空振りし、三振に倒れたが、ベンチに引き揚げる際にも惜しみない拍手が送られた。

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