パ・リーグの現役選手では若月健矢(オリックス)がディフェンスタイプの捕手として目立つ存在だ。プロ入り3年目の2016年から一軍に定着し、年々出場機会を増やして正捕手の座をほぼ手中にしている。小林と比べても明らかにテイクバックの動きが小さく、そこから地面を這うような低い軌道でセカンドまで一直線に届く送球は迫力十分。昨年は甲斐を超えるリーグトップの盗塁阻止率もマークした。

 捕球やブロッキングも高レベルだ。あまり目立たないが配球面にも定評があり、昨年圧倒的なリーグナンバーワンの防御率をマークした山本由伸の登板した試合の先発マスクは全て若月だった。山本自身の実力はもちろんあるが、その良さを若月が引き出していた部分もあるはずだ。昨年の打率は.178でも起用され続けたのは、その高い守備力のおかげである。

 若月の同僚である山崎勝己(オリックス)もその守備力で長年チームを支えている。報徳学園時代から打順は下位であり、プロ入り当時から完全に守備を期待された選手だ。盗塁阻止率は決して高くはないが、スローイングの速さは十分。またブロッキングの上手さは抜群で、実働15年間で捕逸はわずか13しか記録していない。隠れた名手と言えるだろう。

 既に引退した選手で守備力の高さが際立っていたのが的山哲也(元近鉄など)だ。実働15年間での通算打率は.206だが、1026試合に出場しておりリーグトップの盗塁阻止率も二度マークしている。その強肩ぶりは当時のパ・リーグでは特筆すべきものがあった。1014試合の出場で57捕逸とブロッキングに関しては少し弱点があったものの、それは投手陣の弱かった近鉄でプレーしていたことも影響していたとも言えるだろう。

 もう一人紹介したいのは昨年限りで引退した小宮山慎二(元阪神)だ。一軍出場はわずか149試合ながら高校時代からそのスローイングは定評があり、2012年には72試合に出場して44回の盗塁企画数に対して22回の盗塁刺と、その盗塁阻止率は5割をマークした。レギュラーの捕手ではないにもかかわらず、これだけの盗塁阻止率は驚異的と言える。また安定したキャッチングにも定評があり、通算安打はわずか37本ながら16年もの長きにわたって現役を続けられたのは立派だ。

 盗塁阻止以外ではなかなか目立たない捕手の守備だが、それ以外のプレーも勝敗に直結することは少なくない。新型コロナウイルスの影響でなかなかシーズンが始まらずもどかしい時期が続くが、ペナントレースが開幕したら、ぜひ捕手の守備にも注目してもらいたい。(文・西尾典文)

●西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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