しかし、お金は便利なもので、工夫すると「将来のあなた」があなたに向けてお金を支払うことも不可能ではありません。それを実現するのが奨学金制度です。あなたが店番せずに勉強するから、店番によって得られる程度の金額をもらいたいと思った場合、銀行などから奨学金として貸し付けを受けられる制度があります。これは、今お金を借りて将来返すのですから、「将来のあなた」があなたに向けてお金を支払うことに相当します。

 また、もしあなたに高度なプログラミングの才能があれば、企業の経営者が奨学金としてお金をくれるかもしれません。そこには、「大人になったらうちの企業で働いてくれ」という期待が込められています。まさに、「将来のあなたの周りの人々」があなたにお金を支払ってくれたことになるのです。

 先で述べた「将来のあなたの周りの人々」の役割を、親や家族がはたすこともあるといいます。将来を見込んで、親が子どもに「勉強をしたらその分お金をあげるよ」というそうです。ところが、この方法はよくないことが知られています。子どもが「お金がもらえないなら勉強はしない」となってしまうからです。

 勉強は、自らの成長を感じ、楽しみながら行うときにもっとも進みます。お金をもらうと、そうした成長の芽がつまれてしまう恐れがあります。

 子どもを働かせることなく学校に行かせるのは、文明社会のならわしになっています。子どもは、店番による小遣いかせぎで満足しないで、もっと勉強しようということですね。店番もちょっと楽しいけど、勉強はもっと楽しいとなるのが理想なのでしょう。

【今回の結論】奨学金の制度などを使えば、将来のあなたが今のあなたにお金を支払うことができて、勉強を仕事にすることも不可能ではない。だが、勉強は仕事にしないほうが通常うまくいくので、「お金をもらおう」などとは考えないほうがよい。

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石川幹人

石川幹人

石川幹人(いしかわ・まさと)/明治大学情報コミュニケーション学部教授、博士(工学)。東京工業大学理学部応用物理学科卒。パナソニックで映像情報システムの設計開発を手掛け、新世代コンピュータ技術開発機構で人工知能研究に従事。専門は認知情報論及び科学基礎論。2013年に国際生命情報科学会賞、15年に科学技術社会論学会実践賞などを受賞。「嵐のワクワク学校」などのイベント講師、『サイエンスZERO』(NHK)、『たけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオ番組に出演。著書多数

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