そこで患者さんの希望によっては、下がった歯ぐきを回復させる治療法を検討することになります。歯ぐきが下がっていることで見た目が気になることもありますが、歯ブラシが届きにくく、プラークがたまりやすくなるという問題もあります。

 歯ぐきを回復させる治療法の代表は「歯ぐきの移植手術」です。

 さまざまなやり方がありますが、一般的には上あごの上皮とその下の結合組織の一部を切り取り、これを歯ぐきのかわりに使用します。ただし、上あごと歯ぐき、両方を切開するため、傷が治るまではしょうゆや酢など、刺激のある調味料や食べ物がしみます(2週間ほど続きます)。こうした患者さんの負担を減らすために最近は上皮の切開を最小限にして、中の結合組織だけを取り除き、移植する方法も行われてきています。

 ただし、移植手術が向くのは歯ぐきの問題が一部分にとどまっている場合です。何本もの広い範囲で歯ぐきが下がっている場合は見た目の改善を目的として、補綴(ほてつ)治療を希望する患者さんが多いです。

 補綴治療では歯ぐきが下がっている部分の歯にセラミックなどの白い人工歯をかぶせ、残っている歯ぐきのあたりまですっぽりと覆います。

 ただし、補綴治療では健康な歯を大きく削らなければならないというデメリットがあります。また、見た目を優先してしまうとプラークのたまりやすい構造になり、清掃が難しくなってしまいます。

 このようなことがないように、補綴治療は歯周病に詳しい歯科医師のもとで受けることがポイントになります。また、治療後は歯ブラシを含むセルフケアの指導をしっかりと受け、歯周病が再発しないよう、メインテナンスを欠かさず受けるようにしてください。

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若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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