スポーツ医科学の進歩は、テクノロジーの進化と切り離すことはできません。これまでスポーツ医科学の研究は、科学技術の発展とともに右肩上がりに進歩してきました。一つ大きな技術革新が起こるたびに、スポーツ医科学も段階的に躍進しています。とくに、動作測定・分析などをおこなう研究において、コンピューターは不可欠であり、その性能の向上が研究に大きく貢献しました。

 最新技術を駆使した研究の例として、まず有限要素法(FEM)というスポーツ競技の運動や加わる力のシミュレーションがあげられます。この手法により、コンピューター上に作成したモデルを用いたさまざまな研究が可能になりました。また、運動する対象を高速高解像度でリアルタイムに撮影する、高性能光学式カメラを用いたモーションキャプチャーシステムも応用化されました。その三次元位置データ解析により、さまざまなスポーツ競技の詳細な運動動作などの研究が進んでいます。

 このような新たな研究成果が生かされ、日本人選手たちのスポーツの競技力が向上しています。また、スポーツ医科学は、トレーニングの支援や、コンディションづくり、運動能力評価のための測定機器開発やシステムの構築にも役立っています。そして、医療においても、診断・治療・予防の各方面で、技術の進歩による恩恵は計り知れません。AEDの普及により、心房細動が原因の心停止による突然死も防止できるようになってきました。MRIなどの診断機器の開発や、最先端の手術用デバイスの登場で、医療の質が高まり、スポーツ選手がけがや故障をしたときにも早期復帰を後押ししています。

 ひと昔前には、「練習中に水を飲むな」と言われたり、延々とうさぎ跳びをさせられたりして、根性を試されるようなトレーニングは珍しくありませんでした。しかし、それは今の時代、まったくのナンセンス。スポーツ医科学により、完全にやってはいけない行為であることが明らかになっています。脱水は命の危険につながるため、給水は運動中には必ずこまめにおこなわなければなりません。またうさぎ跳びは、膝蓋腱(しつがいけん、ひざのお皿とすねの骨をつなぐ腱)の炎症を起こしやすいトレーニング法であることが研究により実証されているため、いまでは推奨されません。

次のページ
日本のスポーツ医科学は外国に比べてまだまだな側面も