球団の思惑としては、鳥谷は戦力としてだけではなく、営業面でのプラスという打算もあるだろう。一昨年、松坂大輔が入団した時にはキャンプから多くのファンが訪れ、グッズの売上もチーム内でトップクラスと大きな収益を生み出していた。現在の鳥谷であれば、出来高をつけたとしても年俸はかなり低く抑えられる可能性が高く、ある程度一軍で結果を残してくれれば十分に元は取れると考えてもおかしくない。

 以上のことを総合すると、内野手のバックアップ要員として中日が鳥谷を獲得する余地は“ないこともない”という結論になりそうだ。

 ただ、もちろん不安要素もある。チームは若返りの真っ最中であるが、その中に鳥谷が入ることで一軍の枠が一つ減り、若手の抜擢が遅れるというのがその一つだ。鳥谷の存在が根尾や石川の台頭に蓋をするようなことになると、チームにとっては大きなマイナスとなるだろう。

 そして最も大きいのは、やはり鳥谷自身が望む条件面である。抜群の実績を誇るだけに、複数年や一定の出場試合数を保証する契約を要求しているとも報じられているが、仮にそのような条件を受け入れての入団となると、チームに大きな軋轢を生む可能性も少なくない。松坂のような“陽”のキャラクターではなく、中日は地元志向が強い球団だけに、その点は注意が必要だろう。

 それを考えると、やはり最終的には鳥谷自身の問題になってくる。どんな条件でも、どんな役割でも受け入れてチームに少しでもプラスをもたらす。そのような姿勢を積極的に示すことができなければ、このまま引退が濃厚と言わざるを得ないだろう。(文・西尾典文)

●西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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