イスラエルのサッカーには深いユダヤ人のルーツもあります。ヨーロッパと南米の有名なサッカークラブにはユダヤ人の存在感が強く、20世紀初頭にユダヤ人によって設立されたものもあります。その中にはロンドンのトッテナムFCクラブ、アムステルダムのアヤックス、さらには1933年にユダヤ人のクラブオーナーとコーチがナチスによって追放を余儀なくされたドイツの名門バイエルン・ミュンヘンもあります。

 イスラエルのサッカーで興味深いのは、各クラブチームがそれぞれ政治的なイデオロギーを持っている点にあります。サポーターは他国のように主に住んでいる地域のクラブチームを応援する構造ではなく、政治的なイデオロギーでサポートするチームを選択しています。イスラエルの主要都市にはHapoel(ハポエル・カタモン・エルサレムFC)とBeitar(ベイタル・エルサレムFC)、Maccabi(マッカビ・テルアビブFC)という3つのチームがあります。
 
 ハポエル・カタモン・エルサレムFCはスペインの名門バルセロナFCをモデルとしてファンによって作られたクラブチームです。政治的には左派に属し、主にイスラエル労働党の支持者がサポーターです。対するベイタル・エルサレムFCは右派に属し、ネタニヤフ首相が率いるリクード党の支持者が主なサポーターです。マッカビは前述の2チームの中間あたりに存在しています。

 中でも右派のベイタル・エルサレムFCのサポーターは政治的イデオロギーが強く熱狂的で、イスラエル中にサポーターのベースがあります。ネタニヤフ首相をはじめとする右派政治家も時々試合観戦に訪れます。サポーターの中には狂信的でヨーロッパのフーリガンのように暴力的で差別的な振る舞いをする人も残念ながら存在します。

 ベイタル・エルサレムFCはイスラエルのトップリーグの中で唯一アラブ系のイスラム教徒の選手と契約したことがありません。イスラム教徒に対して差別的であるとして繰り返し制裁も受けています。しかし2年前、ベイタル・エルサレムFCの人種差別的なイメージを変えよう考えたイスラエル人経営者兼投資家のモシェ・ホッグ氏によって買収されました。ホッグ氏は、人種差別的なサポーター個人に対し訴訟を進めていると同時に、イスラム教徒の選手との契約を計画していると伝えられています。

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