同作の海外ファンを取り込もうと、立ち上げた販売サイトはすべて英語表記。日本アニメのファンが多いフランスから予約が殺到し、そのほかにもドイツ・ベルギーといったヨーロッパからの注文が集まった。中南米にも購入客がいるという。

「業界が衰退するなかで、文化を継承していくには、何かを変えていかなければいけません。日本が誇るサブカルと掛け合わせることで、新しいものが生まれる。日本人の感覚で言う“奥ゆかしさ”とはかけ離れていますが、ドラゴンボールのマニアにはたまらない着物が出来たと思います」(福岡さん)

 商品化には苦労も多かった。キャラクターを使用するには、版権を所有する会社との調整が欠かせない。今回の場合だと、悟空一つにしても、どの時代の悟空を使うかで、調整先が変わってくる。アニメや映画の作品ごとに、製作委員会が異なるためだ。加えて、作品の世界観を壊さない配慮も必要だという。例えば大人の悟空と子どもの悟空は同じ着物では同時には使えない決まりになっている。

 その他にも、実際にプリントしたときの色味や、衣紋掛けにかけた時と実際に人が着た時に、各キャラクターの位置関係がどうなるかなど、版権元の審査は非常に厳しかったという。背景の地平線の高さだけで、調整に2カ月かかった。

「デザイン案は3日でできたのですが、製作側との調整で2年かかりました。途中で何度あきらめようと思ったことか(笑)。その他にも、着物用にキャラクターを書き下ろしてもらうのに1キャラ1ポーズで3万5千円かかります。悟空でもピッコロでも、ドラゴンボール1個でも同じ。時間とお金をたくさんかけました」(福岡さん)

 苦労の末、“世界初”のドラゴンボールの着物が完成した。作品は「フリーザ復活」「宇宙サバイバル」「未来トランクス」の3種類で、各100着ずつの計300着。帯も3種類用意し、着物・帯・帯揚・半襟のフルセットで1着あたり3,214ドルだ。

 今後はフランスのパリコレへの出展も調整中だ。今年の夏には「名探偵コナン」とのタイアップも計画している。

「キャラクターとタイアップすることで、着物を着るだけではなくて見て楽しむこともできる。着物業界が厳しい中で、文化を根元から変えるのではなくて、新しい+αを入れて継承していきたいです」(福岡さん)

(AERA dot.編集部/井上啓太)