この研究では、ワクチンを打っていない子どもたちの中で、麻疹に感染した77人と感染しなかった5人について、感染前と感染後2カ月の血液を調べました。すると、麻疹の感染後は、平均20%程度の抗体が減少していて、特に16%の子どもたちでは40%の抗体を失っていました(※2)。

 麻疹にかかった直後は肺炎などさまざまな合併症を起こしたり、またその後数年間の死亡率が上昇したりするというデータもありますが、このようなことが起こるのは、麻疹が免疫の記憶をリセットしてしまうことが影響しているのかもしれません。

 日本では10年ほど前に10~20代の若者を中心に麻疹の流行がありましたが、その後追加の予防接種の勧奨などにより、2015年にはWHO(世界保健機関)により麻疹の排除状態にあることが認定されています。しかし、海外から輸入された麻疹の例は毎週報告されている状態で、来年の東京オリンピック開催時期には、多数の麻疹が発生することが危惧されています。

 実際、エボラ出血熱の流行が記憶に新しいコンゴでは、実は麻疹の流行が広がっています。今年に入ってからの麻疹の死亡者数はエボラ出血熱での死亡者数の2倍を超え、5000人を上回ったという報道もありました。

 アメリカの幼稚園や学校は医学的な理由がない限り入園・入学前にワクチンを接種することが法律で定められていますが、宗教的理由や個人的理由によるワクチン免除を認めている州もあります。しかし、そのような理由で未接種者が増えたことによる流行も起きており、例えば4月にはニューヨーク市ブルックリン地区で、ユダヤ教正統派の子どもの間で麻疹が流行しました。

 ワクチン未接種のまま、麻疹の流行するイスラエルを訪れて感染し、それがアメリカに持ち込まれたのです。数百人の子どもと大人が感染し、入院したり、集中治療室にはいったりしたケースも報告されたため、ニューヨーク市では緊急でワクチン接種を義務付け、従わない場合1000ドルの罰金を科しました。そしてニューヨーク州では、宗教的理由によるワクチン免除は取り消されることとなりました。

次のページ
麻疹に自然感染していない人はワクチン接種を