この線路を走るのは、電気機関車が牽引する専用客車で、軽便鉄道やトロッコ列車を思わせる小ぶりな車体が目を引く。車内に入ると大人であれば天井に手が届くほどで、このかわいらしい列車が急勾配や急曲線が大半を占める井川線の線路をゆっくりとたどってゆく。

 なお、井川線の起点・千頭駅の標高は299.8メートル、終点の井川駅は686メートルとおよそ386メートルにのぼる標高差がある。そのため紅葉時期に時間差が生じるが、おおむね11月上旬ごろから12月上旬ごろにかけてがシーズンとなる。

■天竜川沿いの山岳秘境路線

 豊橋と辰野とを結ぶ飯田線も探訪してみたい紅葉路線のひとつ。全長195.7キロという長距離ローカル線で、全線のおよそ7割が天竜川沿いを走る渓谷路線でもある。南アルプスと中央アルプスに挟まれた狭いルートをほぼ南北に縫っており、沿線には飯田市や伊那市などの地方都市を持つものの、秘境めいたロケーションにも恵まれているのが特徴だ。

 豊橋を出発した列車が山間部にさしかかるのが本長篠(ほんながしなの)付近で、宇連川(うれがわ)を車窓に望む車窓は最初のハイライトとなる。三河川合(みかわかわい)~東栄間で分水界を越えると天竜川流域となり、下川合の先で天竜川本流と出会う。

 城西を過ぎると山岳秘境路線としての核心部となり、水窪川(みさくぼがわ)上に架けられ「渡らずの橋」などの異名を持つ第6水窪川橋梁を通過。水窪の先で路線最長となる大原トンネル(5062メートル)を越えると、大嵐、小和田、中井侍と周辺に人家がほとんど見当たらない小駅が連なってゆく。

 とりわけ小和田と中井侍、この先にある田本駅は駅に通ずる道路にも乏しいほど。これらの駅は「秘境駅」にも数えられており、鉄道ファンに人気の探訪スポットとなっているが、天竜川を目前に眼下にするロケーションもよく、紅葉時期の車窓にも期待したいところだ。

 列車はさらに飯田市を過ぎ天竜川の右岸沿いを北上、伊那谷(いなだに)に沿う車窓に木曽駒ケ岳や赤石岳などの名峰を望みながら進む。

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「奥久慈清流ライン」として親しまれる渓谷路線も