また、病院のあり方も変わっていくべきだと指摘。「病床数も足りないので増やすべきですが、いまは急性期医療を中心とする病院が多い。しかし、今後高齢者が増えていくなかでは、慢性期医療を専門とした病院も増やしていくべきと考えています」(同氏)

 このような背景から、市民に医療情報の啓発をすすめるために始まった横浜市の「医療の視点」プロジェクトだが、今回のように、医療とマンガを組み合わせることのメリットとはなにか。そのヒントがトークセッションで話された。

 大塚医師は10年以上前、ニセ医学をひたすら否定しつづける匿名のブログを書いていたと告白。しかし叩いても叩かれて終わるだけ、と気づいた大塚医師はブログの更新を終了。以後10年、インターネットでの情報発信はやめていた。

 佐渡島氏はこれに関連して、認知バイアスについての実践調査について語った。以前、飲み会で血液型診断を信じている人に対し、それがいかにナンセンスなのかを論理的に説明した。すると「血液型診断を信じている女子にものすごく怒られた(笑)」という。

 これを受けて大塚医師は「それは心理学のバックファイヤー効果です」と解説する。

「自分がかたくなに信じていることに反論されると、人は信じていることをより強固に信じるという概念で、2010年に提唱されました」

 それでは誤解を解くのが難しい医療情報を、わかりやすく、相手に反発されないように伝えるにはどうすればいいのか? 『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』など数々の大ヒットマンガを手掛けた佐渡島氏は「物語においては、情報は添え物。情報を主におくのではなく、感情の動きを主にして描くといいと思います」と言う。不安な気持ちに惑う患者に対して論理で詰めるのではなく、感情の物語で接近することができるのがマンガならではの強みだ。

 横浜市は、2015年から2040年にかけての25年間で、75歳以上人口が1.5倍以上に増える見込みだという。増大する医療需要と不安を解消できるか。横浜市は、マンガにその可能性を見いだしている。

 今回の「医療マンガ大賞」の応募には、居住地の条件はとくにない。応募期間は9/30(月)21:00~10/10(木)23:59。結果発表は11月初旬予定で、大賞1作品には30万円、入賞7作品には各10万円が原稿料として贈られる。エントリーはコミチWEBサイトからおこなうことができる。

(文/白石圭)