「知らない会社に行くのは、戸惑いもあった」という枡野さんだったが、「一度履いてみてください」と渡されたパンツを履いて決心がついた。

「履いてすぐに『わお!』と。あのときの衝撃は忘れられません。そしてすぐに『パンツのほうが面白そうだな』と思ってしまったんです。保険と比べれば、パンツは売るだけで縛りがない」

 そして、今やそのパンツで、学生時代からの野望である「世界平和」を目論んでいる。

「女性の下着市場が6400億円なのに対し、男性の方は2700億円と差が開いています。男性は『安いパンツで十分』だと考えている人が多いのです。『自分にはもっとお金をかける価値がある』と、いいパンツを履いて自信を持ってもらいたい」

 TOOTのパンツは、派手なデザインに加え、立体的に縫製された大胆なフロントカップが特徴だ。これによって、男性特有のいわゆる「定位置にしっくりこない」状況を防いでいる。

 これらを人件費の安い海外ではなく、宮崎県日向市の工場で生産している。同市はもともと縫製産業が盛んで、そのなかで経営難だった工場をTOOTが買い取り、生産の拠点とした。熟練の職人たちが一つ一つ丁寧に縫い上げることで、洗濯を重ねても傷みにくい。消費者からは「10年ももった」という声も寄せられている。

 工場の従業員は約50人。当然生産力には限界があるが、「知る人ぞ知る料亭で構わない」というのが、前社長の考えだった。

 ゆえに価格は3千~5千円台が中心で、なかには2万円もする「高級品」もある。

 そんなニッチな事業戦略が、枡野さんの生き方とも重なった。枡野さんは子どものころ、転勤族だった両親の影響で小・中学校は1,2年おきに転校していた。新しいクラスメートにすぐに溶けこもうと、「生存戦略」のなかでとったのが「目立つこと」だった。

「よく言えばニッチ戦略です。大学のときは金髪で、常にそのコミュニティーの異端児でいたかった。僕たちがつくっているパンツも値段は高いし、デザインも万人うけするものではない。うちの商品を知っていたとしても、千人のうち3,4人が履くくらいでしょう」

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パンツはついにNYコレクションの舞台へ