池井多さん自身もそうだが、当事者には電話が苦手な人が多いため、取材は主にチャット形式。言語は基本的に英語。取材を終えて編集し、改めて配信許可を得るころには、相手がネット上から姿を消していたり、気が変わっていたりして、「配信できるのはインタビューしたものの2~3割」だという。だが、当事者同士だからこそ本人も言葉にできないような感覚を汲み取っていくケースもある。

「ひきこもりでいることが大好き。毎日、部屋の中で決して飽きることがない」と語っていたフランス人男性・ギード(22)は、対話を重ねていくうち言葉が変化していった。

「社会の中に自分の居場所を獲得したかった。(中略)ぼくがひきこもったのは、社会がそこまで苦労して適応するに値しない空っぽの世界だという認識に至ったからだ」

 最終的にはそう本音を語った。生まれつきの運動障害からいじめを受け、対人恐怖になった彼は、11歳で外出できなくなっていた。

「ひきこもりになった経緯や状況は一人ひとり違いますが、傾向として日本では母子関係のこじれや父親の不在など家族関係が背景にあるものです。その点、ヨーロッパ諸国では『外出するとテロに遭うのではないか』といった社会不安がひきこもりの原因になっているケースをよく聞きます。ギードのように母子関係が良好で、親が子どものひきこもりを受け容れている家庭も少なくありません。しかしイタリアなど南部へ行くと、ヨーロッパでも日本によくある密着した母子関係が多くなってくるようです」(池井多さん)

 日本の当事者の間では「親の目に触れずにいつトイレや風呂に行くか」という問題が語られるが、南米など人口密度が低く家屋が広い地域では、富裕層でなくても自分の部屋にバスルームがついているので、その問題自体が無いこともある。逆に貧しくて自分の部屋がないというフィリピンの当事者は「親兄弟が自分を悪く言う声を四六時中、耳元で聞かされている」と大きなストレスを抱えていた。先進国と違い、途上国では社会保障制度が未熟なため、生き残りを福祉に頼るという選択肢が初めから無いという違いもある。

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世界のひきこもりに大人気 日本のアニメとは?