海外のひきこもり当事者の取材を続けるぼそっと池井多さん(撮影/金城珠代)
海外のひきこもり当事者の取材を続けるぼそっと池井多さん(撮影/金城珠代)
フランス人のひきこもり女性、テルリエンヌ(38)の食事(テルリエンヌさん提供)
フランス人のひきこもり女性、テルリエンヌ(38)の食事(テルリエンヌさん提供)

「ひきこもりになんて、なりたくなかった」

【画像】パリ生まれの女性ひきこもり・テルリエンヌ(38)の食事とは?

 14歳からひきこもり状態が続くフランス人女性(38)の願いは結婚して就職し、家を買い、勉強を再開させることだ。しかし直後には、こうも漏らした。

「そう望むのには、もう遅いのかもしれない……」

 外に出ようともがくたびに、部屋から出られなくなる。その繰り返しだった。職業訓練を受けたり、自分で仕事を見つけて内定をもらったこともあったが、最終的には辞退した。親に責められ、何日も風呂に入らずに過ごすこともあった。30歳を目前に一人暮らしを始めてからは、3週間に一度、ソーシャルワーカーと日用品を買いに行く以外はほとんど外出しない日が続いている。

 食事の中心はインスタント麺。生活サイクルは不規則で、1日中パソコンの前に座っているため「背中が痛い」のが目下の悩みだ。マンガやアニメが好きな自称「オタク」。それでも、他人とやり取りしなければいけないオンラインゲームは避けている。ひきこもるようになったのは学校でのいじめやアルコール依存の母の存在、父の暴力などいくつもの苦しさが重なった結果だった。うつ病の治療を続けながら、いまも理想と現実の間でもがいている。

 アルゼンチンに住む男性(27)は中学2年生のころ、いじめを受けて不登校になり、以降14年間どこにも出かけられなくなって「一生ひきこもりを続ける」と宣言している。フィリピンに住む別の男性(33)は母親の希望で入った国立大学経済学部を卒業後、約10年間のひきこもり状態が続き「外に出かけるのがどんなに辛いかを親はまったく理解していない」と訴えた。

 ほかにもアメリカやイタリア、バングラディッシュなどから取材に応じる彼らはみな、自身を「ひきこもり」と認める。いまや「hikikomori(ヒキコモリ)」は世界共通語だ。彼らを取材し、ひきこもり当事者によるメディア「ひきポス」で発信しているのは、自身も23歳から34年間、断続的にひきこもり状態が続くぼそっと池井多さん(活動名、57歳)。インタビューは英語やフランス語のほか6カ国語で配信されている。

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80年代の南アで「イタリア人のひきこもり」との出会い