妻は女優の安藤さくら。柄本佑(えもと・たすく) (c)朝日新聞社
妻は女優の安藤さくら。柄本佑(えもと・たすく) (c)朝日新聞社
矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ、横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』
矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ、横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』

「いだてん~東京オリムピック噺」低視聴率の原因を勝手に分析するなら「マッチョなおっさん」に嫌われているのだと思う。

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 マッチョ心、ときめかないだろうなあ、と思う。「権力争い」とかが好きで、「御意」とかが好きで、それで大河ドラマを見ているおっさんには無理だろうなあ、と。

 脚本家の宮藤官九郎は、男とか女とかをヒョイっと乗り越える人だ。女性に対する偏見のなさを背景に、「えっ、男が上とかって何ですか?」みたいな人だと勝手に思っていた。

 ところが、このところの「いだてん」は攻めていた。「男らしさとは、女らしさとは」というテーマにまっすぐに取り組んでいた。人見絹枝という日本人初の女性メダリストを描いた結果なのだが、毎回泣けた。これを見ない人の気が知れない、とさえ思った。

 ここから柄本佑の話をする。攻める宮藤を象徴する大事な役どころだ。まず名前から紹介する。「増野」だ。下の名前はない。番組ホームページの人物相関図に下の名前だけの人がいて、「シマ」だ。「増野」は「シマ」の夫だ。

 途中を省くが、シマは女学校の先生だ。杉咲花が演じている。走ることが好きで、オリンピック出場を夢見ている。増野にプロポーズをされるが、「まだ自分は何も成し遂げていないから」と断る。増野は、「残念だなー、両親も気に入っていたのに」とサラッと言う。

 ここまでの増野に関する情報は、「日本橋の百貨店に勤めている」しかない。三つ揃いをおしゃれに着こなし、お金持ちそうに見える。そんな人が親の話をしたから、薄情なお坊ちゃんだろうなーと思った。ところが、増野はこう続ける。

結婚して子供を産んだ人は(オリンピックに)出場できないものですか? だったら出ましょうよ。子ども連れて、応援に行きます。あ、やめてくれって言うと思ってました? 続けてください、仕事も、走るのも。結婚のために、何も犠牲にしてほしくないんです」

 宮藤にしては珍しい、思想信条を説明する台詞。宮藤はこのあたりから、「女らしさを強いる男のおかしさ」を堂々と打ち出すと決めたと思う。金栗四三という主人公は当初から女性への偏見がない人として描かれていて、随所に宮藤の非マッチョさが表れていた。だが、「男らしさ、女らしさってのをメインテーマにしますねー」という号砲が、この増野の台詞だったと思う。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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