2. がん細胞の遺伝子変異の数 (N Engl J Med. 2015. 372(26):2509-20.)

 がん細胞には多くの遺伝子変異が起こります。例えば、細胞増殖をストップする働きを持つ遺伝子に変異が起き、がん細胞が制限なくどんどん増殖します。この遺伝子の変異の数が多いがんのほうが、オプジーボが効きやすいとわかっています。

 すこし難しい話になりますが、高校で生物を学んだ方は思い出しながら読んでみてください。遺伝子はその配列によって最終的にたんぱく質を作ります。たんぱく質の設計図が遺伝子です。遺伝子変異があるということは、この設計図に異常があるということです。設計図に異常があれば、でき上がったたんぱく質も変なものになります。

 人間の体は普段、自分の体の中にあるたんぱく質は自分のものとして認識して免疫は攻撃しません。しかし、異常なたんぱく質は別です。異常なたんぱく質は自分ではなく敵と認識します。

 キラーT細胞の働きを自動車の部品工場で考えてみます。設計図が狂った部品(例えばハンドル)は形のおかしなハンドルとなって生産されます。不良品は品質管理の部署ではじかれますよね。キラーT細胞は体を構成する細胞の品質管理をしています。それも種類の違う不良品(例えばハンドル以外にもブレーキやサイドミラーなど)があれば、新しい仲間を増やして取り除く作業を行います。

 オプジーボはキラーT細胞の働きを応援する薬剤です。遺伝子変異(設計図のミス)が多いがんには、動員されるキラーT細胞の種類と数が増えます。結果、オプジーボの力を借りてがんが排除されやすいことがわかります。

 つまり、がん細胞の遺伝子異常の数を治療前に調べることができれば、オプジーボが効くかどうか予想がつくのではないかと考えられています。

 しかし残念ながら、がん細胞の遺伝子異常の数は保険診療では調べることができませんし、研究レベルでも値段の高い検査です。

3. がん細胞が発現するPD-L1 (N Engl J Med. 2012. 366(26):2443-54.)

 オプジーボやキイトルーダなどのPD-1阻害剤は、PD-1とPD-L1の接着を阻害することでリンパ球を活性化します。PD-1とPD-L1の接着は免疫機能のブレーキであり、このブレーキを解除することでよりキラーT細胞の攻撃力を高めるわけです。オプジーボなどのPD-1阻害剤が効くためには、このブレーキがかかっていることが前提になります。

 つまり、がん細胞がPD-L1分子を発現し、そこにいるキラーT細胞がPD-1分子を出してブレーキをかけられた状態が前提としてあります。ところがPD-L1分子はすべてのがん細胞が発現しているわけではありません。全くPD-L1を発現していないがん細胞もいます。

 がん細胞(腫瘍組織)のPD-L1の発現があるのかないのか、多いのか少ないのかは、オプジーボの効果を予測する上で大事な因子です。肺がん領域、また、メラノーマではオプジーボとヤーボイの併用療法で、がん細胞のPD-L1発現を事前に検討することが求められています。

まとめ

 オプジーボの効果予測因子(バイオマーカー)として代表的なものを三つ紹介しました。

1つ目は、腫瘍組織へのリンパ球浸潤
2つ目は、がん細胞の遺伝子変異数
3つ目は、がん細胞のPD-L1発現
です。

 施設によって、できる検査とできない検査があります。また、保険でカバーできないものもあります。

 がん細胞の遺伝子変異を調べるためには、特殊な技術と設備が必要です。オプジーボ投与前に検査が必須となっているもの(肺がんとキイトルーダ、メラノーマのチェックポイント阻害剤併用療法)以外は、研究レベルであり普段の臨床で応用するにはまだ時間がかかるものと考えておいたほうがよいでしょう。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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