今まで入れ歯の管理を自分で行っていた高齢の認知症患者の口臭が、急にひどくなったということはありませんか。書籍『「認知症が気になりだしたら、歯科にも行こう」は、なぜ?』では、北海道医療大学歯学部教授の越野寿歯科医師が、入れ歯でサポートする「食べるチカラ」について解説しています。

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 噛む力がどのくらいあるかについて、数字で示す方法は多数あります。「噛み砕く能力」を評価する方法では、健全な歯を有する人と比較して、総入れ歯の人は30~50%だといわれています。「何を食べられるか」という観点でみた場合は、総入れ歯の人は健全な歯を有する人と比較して、70%程度のものを食べられると報告されています。

 栄養摂取やQOL向上の観点で考えると、「何が食べられるのか」が一つの指標と考えられます。スルメやアワビは噛み砕けないけど、たくあんならポリポリ食べられ、肉類もある程度食べられる──この程度が70%のレベルであり、入れ歯をつけたことで機能を適正に回復できたレベルといえます。ただし、これにはあごの状態や唾液の出ぐあいなど、複雑に影響する要素があるので、平均的状態に限ってという条件がつきます。

 一方、入れ歯なしの場合、丸のみできるか歯茎で押しつぶせる程度の硬さの食品でないと摂取できず、生野菜の摂取は難しくなります。そのため、栄養学的にバランスの取れた食事は困難となりやすいといえます。

■認知症が進む前に入れ歯の製作・調整を

 残念ながら、高齢者の多くは現在、程度の差はあっても何らかの入れ歯を必要としているお口の状態になっています。

 総入れ歯を作る際には、歯があった時の顔貌をできるだけ再現するようにしますが、噛み合わせの高さやカチカチと安定して噛める位置を決めるためには、患者さんとのコミュニケーションが重要となります。したがって、認知症が進行すると入れ歯の製作や調整は難しくなる場合もありますが、まったくできないというわけではありません。

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