“世界の王”がまさかの珍事を… (c)朝日新聞社
“世界の王”がまさかの珍事を… (c)朝日新聞社

 今シーズンが開幕してあっという間に時間がたち、早くも交流戦に突入しているが、懐かしいプロ野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、80~90年代の“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「世界の王がまさかの珍事編」だ。

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 常に沈着冷静のイメージが強い王貞治だが、1966年11月14日の日米親善野球第16戦、巨人vsドジャース(小倉)では、「あの王さんがまさか!」と思わず目が点になりそうな珍プレーを演じてしまった。

 この日は先発のマウンドに上がった18歳の堀内恒夫がドジャース打線を3回までゼロに抑える力投。その裏、巨人は柳田利夫、柴田勲の連続四球で1死一、二塁のチャンスをつくると、4番・王がウィルハイトの外角球を左中間席に打ち込んだ。

 先制3ランと思われた直後、なんと王が一塁ベースを回ったところで一塁走者・柴田を追い越してしまうトンデモハプニング。

 なぜこんなことが起きたのか?

 実は、フェンスギリギリの打球だったことから、柴田がハーフウェイで見守っていたのだが、それとは知らずに王がうっかり追い越してしまったのだ。

 ハービー一塁塁審から「アウト!」を宣告された王は、その声に立ち止まって振り向くと、「オレがアウト?」と目を丸くした。そして、状況がわかると、「失敗、失敗」と頭をかきながらベンチへ。

 走者追い越しアウトというと、長嶋茂雄を思い出す人も多いはずだが、この日長嶋は欠場。そんな状況下で“慎重居士”の王が長嶋に“変身”してしまおうとは……。

 王の一打はシングルヒット扱いで打点2が記録され、試合はこの2点がモノを言って巨人が3対1で逃げ切った。

 だが、堀内がメジャーリーガー相手に1失点完投という快挙にもかかわらず、川上哲治監督は「王の追い越しホームランは、ベンチで指示してやらねばいけなかった」と反省を忘れなかった。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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王さん、唯一の“ミス”