■懐かしくて新しい会社

 映画『ALWAYS 三丁目の夕日』を観ていない人に説明をすると、あの映画に描かれている人間模様は決して「温かい」だけではない。人と人の距離が近いからこそ、ケンカもする。いがみ合う。現代の価値観から見れば、暑苦しくて面倒くさい人間関係ともいえる。

 坪内も船団の漁師と口論することなど日常茶飯事で、取っ組み合いのケンカもした。ギブリの事務所には子ども部屋があり、時には女性スタッフ6人の子ども8人が勢ぞろいして「共同生活みたい」な賑わいになる。まさに、『ALWAYS 三丁目の夕日』を彷彿させるこの近しい関係性を、坪内は大切に思っている。

「私、人間はひとりひとりが歯車だと思っているんですよ。自分も歯車のひとつなので、自分を過大評価することなく、役割を全うして、一生懸命、歯車を回し続ける。そうすると多分、家族とか友達、社員もぐるぐると回ってくれる。それが人の役に立つことなら、会社って勝手に大きくなるし、勝手に人が集まるし、勝手に市場が広がるんです」

 自分はひとつの歯車。ひとりでは空回りするだけ。だからこそ、仲間と密な関係を築く。全員の歯車がかみ合うように。苦しさを抱える誰かの手を離さないように。

 坪内が提示する「経営モデル」は、昭和の香りがする。しかしなぜか、新しくも思える。「採用には困ったことがない」というから、惹かれる人も大勢いる。地方にこのスタイルが広まったら、日本はどう変わるのか。それを想像して、ワクワクするのは僕だけではないだろう。(文中敬称略)