■『ALWAYS 三丁目の夕日』のような会社

 坪内は、高校生の頃から「幸せに生きるために働く」道を選び、その方法を思案してきた。その想いを実現したのが、萩大島船団丸であり、2014年、山口県萩市に立ち上げた株式会社「GHIBLI(ギブリ)」だ。

 萩大島船団丸の立ち上げから9年。彼女が考案した、魚を船上で加工して港から飲食店に直送する「粋粋Box」は、旧態依然とした水産業で六次産業化を成功させた革新的なケースとして大きな注目を集めた。

 全国から殺到する問い合わせに対応するために設立したのがギブリで、船団丸の鮮魚販売だけでなく、ギブリを通してコンサルティング事業も始めた。現在は高知、北海道、鹿児島のクライアントとともに漁業の六次産業化に携わっており、ギブリが手配する鮮魚の契約先は500軒に達する。

 こう書くと順風満帆のように思われるかもしれないが、その道のりは苦難の連続だった。契約先に直送するとなれば、それまで魚を卸していた中間業者を通す必要がなくなる。その中間業者からの脅しに近いクレームや、加工や配送などの作業が増えて不満を溜める漁師との衝突、契約先からの苦情やそれに伴う契約の打ち切りなど、この10年間のトラブルを挙げればきりがない。いつ空中分解しても不思議ではなかった。

 それでも事業を継続し、ここまで成長することができたのは、恐らく、坪内が目指した経営が関係している。坪内から「戦後復興期のなんとか商店」という話を聞いて僕が思い浮かべたのは、昭和の東京・下町を舞台にした映画『ALWAYS 三丁目の夕日』だった。そこで率直に、「あの映画みたいなイメージですか?」と尋ねると、彼女は「そう、そう!」とうなずいた。

「うちは本当にあんな感じですよ。あの映画に出てくるような会社を作りたかったんです。ビジネス書って、東京のベンチャーとか大企業の話ばっかりじゃないですか。自分が会社をつくる時に、そうじゃないんだよな、しっくりこないなと思いました。東京の真似をするんじゃなくて、地方に合った新しい経営のモデルを作ることができたら、世の中が少し変わるかもしれないと思っています」

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一生懸命、歯車を回し続ける