そんな緊張状態の中で、全身から血の気が引き、その血液がすとんと足元に落ち手足が硬直して冷たくなるのを感じる――。

 こんな戦場からやっと逃げてこられたそのとき、逃げてきた自分の手や足がないことに気づいたとしたら……。自分の身体に大きな損失があるなんて、誰でも思いたくない。

 私がなくしてしまったのは、自分自身だった。空が美しいと思えたり、季節の移り変わりを感じたり、好きな人に胸をときめかせる時間の代わりに私が得たのは、何を見ても無感覚で空っぽな感情、男性というだけで恐怖心がわき上がってくる心、自分が生きているかも死んでいるのかもわからない凍りついた感覚だった。

 失ったものの大きさや、自分の歪んだ認識、生活のしづらさに気がつきながらも、なお被害を認めることはできないのだった。

 しかし症状が出てきた以上、全てを遮断していた状態には戻れなかった。力がなくても前に進むしかない。

 でも、それは痛みと向き合うことだった。