こうした動きは宗教者が臨床宗教師として活動する可能性を広げることとなった。宗教者の公共の場での活動というと、病院でのチャプレンがイメージされがちだったが、災害のときに、また平常時にも地域社会の痛みの場で臨床宗教師が活動する可能性が見えてきたのだ。2016年に日本臨床宗教師会が発足し、宗教者が宗教施設や信徒家庭の外で働く場がますます広がっていく方向性が見えるようになってきている。

■グリーフケアとスピリチュアリティ

 グリーフケアの広まりと宗教者の公共的な場での活動は同時代的である。宗教集団の枠を超えたスピリチュアリティが求められているという事態は続いている。だが、そこで死が重要な主題となると、もはや癒しの枠を超えるようなスピリチュアリティも求められる。そこでは、取り返しがつかないものが問われている。取り返しがつかないもの、とりわけ死に向き合うとき、宗教伝統の力は大きい。取り返しがつかないものや死に向き合おうとするとき、見返りを求めぬ祈りが呼び覚まされるが、それは宗教と近しいものだ。だが、そこでの宗教伝統は、必ずしも堅固な答えを求められているわけではない。人々は死後の魂のゆくえについての宗教の教えに従うつもりがないことが多い。にもかかわらず、伝統宗教のもつ超越界との関わりが求められるのだ。システムとしての宗教に服するというよりは、それぞれのスピリチュアリティを求めつつ、宗教にその資源を求めるとも言えるだろう。