法律が子どもを守るんだという発想は、一般的にはまだピンと来ていないかもしれません。日本では虐待の問題に裁判所があまり関与していないので、その発想が定着しないのかもしれません。常勤弁護士が児童相談所に定着すれば、裁判所が関与すべきだという意見も広まってくるでしょう。

大久保:私も20年ほど前に裁判所が児童虐待問題に深くかかわっている米国で取材をして、日本でも裁判所が関与した方がいいという記事を書いてきました。でも、なかなか進みません。なぜ日本では裁判所の関与を求める人が少ないのでしょうか。

藤林:子どもを法律で守るという発想が少ないのだと思います。里親や施設に措置された子どもが実親や親族の元に帰るのか、それとも特別養子縁組(実親との法的な親子関係を解消し、実の子と同じ親子関係を結ぶ制度)の方向に進むのかということを決めるパーマネンシー(永続的解決)プランを早く立てることを、欧米では30年前からやっています。パーマネンシー保障の観点からは、親に対しては養子縁組に同意しないのであれば、子どもに面会に来て、我々の支援を使って、家庭復帰に努力してくださいと促します。漫然と里親や施設に長期間措置するということは極力避けたいという考えがあります。

 でも日本ではいまは強制力は何もありません。親が特別養子縁組に同意しないといえばどうしようもないのが現状です。「再統合に努力しなければ、特別養子縁組の判断を児童相談所が裁判所に申し立てますよ」と言えない状態では、米国や英国のように、パーマネンシー・プランニングをすることはできません。

 結果、施設に入れっぱなしになっています。私は、家庭復帰の努力をいっぱいした上で、それでも実親や親族の元に復帰できない子どもたちには、特別養子縁組という選択肢を提供したいと考えています。チャンスを拡大するべきです。特別養子縁組は、現状では子どもの年齢は6歳未満とされていますが、その年齢制限の引き上げや、親の同意が得られないときに児童相談所が申し立てる制度などをつくっていくのはごく当たり前のことだと思います。

 子どもの命や権利を守るために、法律を駆使するという視点をケースワーカーがもっともつべきであって、情熱をもって保護者を説得するということでは解決にならないと思います。