今年1月、千葉県野田市で小学4年の栗原心愛(みあ)さんが自宅で亡くなった事件が発生し、児童相談所の体制強化を求める声が高まっている。『ルポ 児童相談所』の著者・大久保真紀さんは、強化すべき点の一つとして「弁護士の配置」について取り上げている。児童相談所に弁護士がいると何が変わるのか。日本で初めて弁護士を常勤職員として配置した福岡市こども総合相談センター(児童相談所)の藤林武史所長との対談を本書より紹介する。

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大久保さん(以下敬称略):福岡市では日本で初めて、児童相談所に弁護士を常勤職員として配置しました。それが、いま「こども緊急支援課長」を務める久保健二さんですよね。2011年から任期付きで常勤雇用し、16年4月からは一般職員となりました。弁護士を配置したきっかけを教えてください。

藤林さん(以下敬称略):福岡市で虐待死亡事件が多発し、2009年は5件、6人が死亡しました。児童相談所がかかわっているケースもあったし、かかわっていないケースもありました。いまの体制では不十分だということで、職員の増員と専門性の向上のために、そのころから児童福祉司の専門職採用を始めました。また、保護者の同意の有無にかかわらず、迅速に子どもの安全確保のための保護を行うことが重要だということで、その判断を的確に行うためには、法律の専門家の助言や判断が必要だと考えました。

 一方で、保護者の同意を得ずに保護を行うということは、保護者との間に激しいやりとりが発生するので、職員に不安やためらいが生じざるを得ません。一時保護が法的に妥当であるという、バックアップする専門家の判断があることで、躊躇なく一時保護を実施できると考えました。現場の児童福祉司であるワーカーたちの自信につながればいいな、という思いもありました。

 実際には想定以上の成果がありました。児童福祉司だけでなく、センターで働く職員の「子どもの権利」に関する意識が高まったし、親権への適切な理解も深まったと思います。

 私や児童相談所職員が、子どもの権利を知らず知らずのうちに制限していたことにも気づかされました。一時保護中の子どもの外出や通学などの権利ですね。所長や児童相談所職員の発想だけでは解決できないものもあって、弁護士の久保さんが職員でいることによって、子どもの権利を一つひとつ保障していくことができると思っています。

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弁護士の常勤派と非常勤派で意見が分かれ…