ピエール瀧容疑者 (c)朝日新聞社
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写真はイメージです
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 3月12日に逮捕されたピエール瀧(本名・瀧正則)容疑者(51)が摂取していたとされるコカイン。たびたび芸能人やスポーツ選手の所持・使用が報道される大麻や覚せい剤と異なり、この薬物が日本社会でこれほどの注目を集めるのは珍しいことだ。一方で、欧米に目を向けると、日本人の感覚では信じがたいようなコカインを巡る社会問題が認知されつつある。

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■勉強にコカインを使う大学生

 瀧容疑者が逮捕される3日前、3月9日に、薬物中毒者のリハビリに関する調査・報道を行う米機関ドラック・リハブ・プログラム・ジャーナルがひとつの記事を掲載した。「大学におけるコカイン乱用について(※日本語訳は筆者によるもの。以下同)」と題されたこの記事は「米国の大学生におけるコカインの乱用が増加している」という報告から始まる。

 同記事によると、2013年に「コカインを使用している」と告白した学生は2.7%、2014年には4.4%に増加。同記事はこの数字が自発的な回答にもとづく点を強調し、潜在的にはより多くの乱用者がいる可能性、そして現在までに乱用者はさらに増大している可能性を示唆する。

 問題は、コカインを使用する動機だ。米国ではコカインはもっともポピュラーなドラッグのひとつであり、上述の調査において「過去1ヶ月にコカインを使用した経験はあるか?」という質問に「イエス」と回答したのは約150万人にのぼる。その目的は、往々にしてクラブやパーティーで“ハイ”になるためだ。しかし大学生の場合、別の理由もあるという。勉強の効率を上げるためなのだ。

 コカインを摂取すると、倦怠感が消え、気分が高揚し、集中力が高まる。端的に述べれば、やる気がでるのだ。とはいえ、ドラッグを使用した状態で勉強などできるのだろうか。この疑問に答えたのは、2018年に記者がニューヨークの薬物問題を取材している際に出会ったダニエル(本人の希望により仮名。21歳)という、都市工学を学ぶ白人の大学生だ。

「レポートとか、課題をやる時にコカインをやってる。あれがないとSNSを見たり、友達とチャットしちゃったり、全然はかどらない。コカインがあれば『世界には僕と課題だけ』って感じになって、徹底的に集中できる」(ダニエル)

 彼はたいてい一度に1グラムのコカインを購入し、1週間に1~2回使用する。価格は1グラムで80ドル(約9000円)。売人とはクラスメートの紹介で知り合い、電話をすると30分程度で自宅の近くまで届けにくるのだという。一回の吸引量は0.1グラムほど。効果は1時間前後で切れるので、ひとつの課題を終えるまで合計で3~4回吸引することが多い。取材の段階で、そうした生活を6ヶ月ほど続けているという。一方で、パーティーなどの遊びの場でコカインを使うことは「あまりない」そうだ。

 しかし、身体や精神に悪影響はないのだろうか。

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二日酔いに似ている?