「課題に手こずって、吸い過ぎた翌日はだるかったり、ぼんやりした不安感があったりする。二日酔いに似てる。でも自覚しているダメージはまだないよ。リスクは承知しているし、だからこそ分量と頻度の管理は徹底してる」(ダニエル)

 勉強や仕事の効率を上げるために薬物を使用する、という事例は、以前から欧米を中心に問題視されていた。その代表格はコカインではなく、アデラルやリタリンを筆頭とする「スマートドラッグ」だろう。アデラルもリタリンも、本来は注意欠陥多動性障害(ADHD)などの治療のために処方される薬だが、覚醒効果と集中力を高める効果があり、ネットの個人販売などを通じて非合法に購入し、試験勉強などに使う者が後を絶たないといわれる。しかし、なぜダニエルは、スマートドラッグではなくコカインを選んだのか。

「アデラルもリタリンも効き目が長すぎる。量にもよるけど12時間くらいは目が冴えてしまうから、明け方まで寝付けないことがある。コカインは1時間で効果が切れるから便利。課題を片付けたらしっかり寝て翌日の授業に備えることができる」(ダニエル)

 彼が知る限り、勉強にコカインを使う学生は「多くはないと思う」とのことだ。交友関係では、彼を含め2、3人。一方で、スマートドラッグ、とくにアデラルは「たいていの学生は勉強のために使ったことがあるのではないか」と付け加えた。

 信憑性がないとは言えない。若者の薬物乱用防止を目的とする米NPO「パートナーシップ・フォー・ドラッグフリー・キッズ」の2014年の調査では、回答した大学生の44%が「勉強のためにアデラル等の薬物を使用した経験がある」と述べている。補足をすると、アデラルは米国における商品名であり、国際的にはアンフェタミンと呼ばれる。日本では覚せい剤取締法で規制されている、正真正銘の覚せい剤だ。

■薬物乱用を助長する過酷な競争社会

 なぜ米国の学生はコカインや覚せい剤を使用してまで勉強するのか。よく語られる理由のひとつは、手に入りやすく、価格が安いという単純なものだ。

 米国の大都市ならば、夜更けの繁華街を数時間も歩けばコカインの売人に声をかけられることは珍しくない。また、先述のダニエルが証言した1グラム約9000円という価格も、他の先進国と比較すれば低いという。

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日本での末端価格