一方、安倍政権と厚労省だけを責めるのも、実はやや不公平なところがある。それは、大手粉ミルクメーカーも、本当は、あまりやる気がなかったので基準設定を強くプッシュしなかったという事情があるからだ。彼らが本気で厚労省に要望していればもっと早く基準設定がされていた可能性は高い。

 では、何故メーカーがやる気がなかったかというと、出生数の減少で事業の収益性・将来性に自信が持てなかったこと、逆にうまくいった場合には既存の粉ミルク事業との市場の食い合いになることを怖れたこと、液体ミルクを作るには新たな投資が必要なうえに、もしも粉ミルク事業の方が縮小するとその設備が一部不要となり、減損処理する必要が出る可能性もあることが理由として考えられる。

 つまり、純粋な事業としては成り立たない可能性があったということだ。ちなみに、海外でも似たような事情があるのだろうか、液体ミルク事業に補助金を出している国もあるという。

 日本政府も来年度の税制改正で、液体ミルクの原料となるホエイ(乳清)を輸入する際の関税率を粉ミルク並みに引き下げることで、少なくとも粉ミルク並みの支援体制は取ることになっている。しかし、これだけではまだまだ不十分だろう。

■グリコ頑張れという声もあるが、問題は価格

 昨年夏に厚労省が食品衛生法上の規格基準を設定し、それを受けて消費者庁が健康増進法上の表示許可内容を明確化したことにより、ようやく、民間企業がそれをクリアすれば、「乳児用液体ミルク」の販売ができることになった。

 そこで、最初に手を挙げたのが、意外なことに、江崎グリコだった。「グリコは偉い!」という声も聞こえてきそうだが、実は、グリコは、粉ミルク事業ではほとんど存在感がない。粉ミルクのシェアは、明治がトップで、森永乳業、雪印メグミルク傘下の雪印ビーンスターク、アサヒグループ食品と続くが、グリコのシェアは数%しかないということだ。グリコには粉ミルクメーカーのイメージはほとんどないと言っても良いだろう。したがって、グリコは今回液体ミルク市場に参入するにあたって、「失うものがない」という強みがあったという見方もできる。

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肝心の価格は…