■災害で液体ミルクに光が当たった

 このような状況に風穴を開けたのが、16年4月の地震だった。厚労省が「特例」として配布を認めたのだ。フィンランドの乳製品メーカー「ヴァリオ」が、日本フィンランド友好議員連盟の呼び掛けに応じ、200ミリリットル入り紙パック約5000個を無償で提供したことが、この決定を後押しした。

 ところが、昨年9月の北海道胆振東部地震の際は、東京都がフィンランド製の乳児用液体ミルク1050個を北海道庁に提供したのに、ほぼ全量が使われなかったという「事件」が起きている(北海道新聞)。被災した厚真、安平、むかわ、日高、平取の5町に約200本ずつが配布されたにもかかわらず、その後、道庁から、胆振、日高両総合振興局や道立保健所に対し、「液体ミルクは国内で使用例がない」「取り扱いが難しい」として使用を控えるよう各町の担当者や保健師に知らせることを求めたのが原因だという。

 役人がリスク回避のために、被災者のことを忘れて保身に走った典型的な事件だった。福島第一原発事故の時、原発被災地に大量の家庭用のカセットガスボンベを届けようと車で向かった男性が、警察に止められ、危険物を大量に運ぶ許可がないと言われて、泣く泣く諦めたという話があったのを思い出した。

 折しも、2月21日に北海道胆振地方で最大震度6弱の地震が発生した。大きな被害は出なかったが、局地的ながら断水する地域が出た。住民にとって真冬の厳寒期に水を取りに出かけるのは大変な負担だし、より大きな余震が来れば、広域で断水する可能性もある。

 昨年の北海道地震で使われなかった液体ミルクは、まだ保存されているはずだ。あれからまだ半年も経っていないから、保存期間が過ぎていなければ、今回は迅速に、断水地域の乳児がいるご家庭に配布できたはずなのだが。どうなったのか注目しておきたい。

 それにしても、政府がもっと早く乳児用液体ミルクを販売できるようにしておけば、今頃、被災地では、日本製の乳児用液体ミルクが配布あるいは販売され、「やっぱり、日本製の乳児用液体ミルクは便利で安心だね」という声が上がっていただろう。本当に残念なことだ。

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負担軽減にも…