矢継ぎ早に質問を繰り出す津田氏。白熱した議論は予定時間を大幅に超え、3時間近くに及んだ
矢継ぎ早に質問を繰り出す津田氏。白熱した議論は予定時間を大幅に超え、3時間近くに及んだ

質問に答える佐藤優氏
質問に答える佐藤優氏

 2018年11月、朝日新書より佐藤優さんが『官僚の掟 競争なき「特権階級」の実態』を、津田大介さんが『情報戦争を生き抜く 武器としてのメディアリテラシー』を上梓。それを記念した対談イベント「情報戦争の黒幕~その視線の先に迫る」が開催された(2018年12月9日)。同イベントでは、“情報”を専門的に分析する両者が、外交の力関係からマスコミと官僚の癒着、沖縄に関する問題まで、幅広い話題を闊達に論議。その一部を紹介する。

【質問に答える佐藤優さんはこちら】

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■北方領土問題について

佐藤:外交というのは、ニュートンの古典力学が作用する世界です。結局、力の均衡によって国際関係は動いている。

津田:日本とロシアとの間でも、そういう力関係があったんですか。

佐藤:2001年、森喜朗首相は、北方領土に関して「2+2」方式の解決を想定していました。歯舞群島・色丹島を、まず日本に返させる。その後、国後・択捉の住民たちは、色丹島の環境が良くなっていることに気づき、日本を選択するだろう。こういうシナリオだったわけです。

津田:なるほど。

佐藤:今、この方式は不可能です。なぜなら、2012年にプーチンが第四代ロシア大統領に就任して以降、端的にいえば、国後島と択捉島を領土交渉の対象にしないという態度をとっているからです。さらに、2001年時点のロシアと日本の力関係が変化しています。日本の国力は残念ながら弱くなって、ロシアは強くなっている。だから均衡点が変わってきます。他方、1956年の時点のソ連と日本の力関係と比すると、相対的に日本の力は強くなっている。だから、1956年以上、2001年未満で落ち着くわけです。同じように、領土ほか外交問題を抱える韓国との力関係を考えると、日本は韓国にだいぶ追いつかれている。その結果として、1965年の日韓基本条約をある意味では不平等条約のように感じられるのでしょう。現在、それをやり直したいという意見が起こっているんです。

津田:外交においては、力関係が重要なファクターというわけですね。

佐藤:その通りです。力関係は変化し、ある地点で均衡します。日本が均衡点を探る中で、アメリカの影響力が後退して、中国と北朝鮮と韓国が連携することで、現在、北緯三八度付近にある対立線が対馬に下がってくるわけですね。では、日本がカウンターバランスをどこにとるのかというと、ロシアしかありません。それが、対米従属的な安倍政権が、ロシアとの関係を改善する大きなゲームチェンジをしている理由です。

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外務省はもう完全に思考放棄状態