津田:そうなると、外務省内の担当部署間での力関係も大きく変わってきそうですね。

佐藤:その意味においては、外務省はもう完全に思考放棄状態で、疲れ切っています。一方で元気があるのは、経産省と警察庁。さらに、経産出身、警察出身で、内閣官房、さらに内閣府の一部の官僚たちが集まり、権力の中枢をつくっているわけですよ。そういう人たちを、私は著書の中で、「第二官僚」と位置づけました。単純に保守とかリベラルとかで分けられない不思議な政策を取っている人たちです。

津田:それが、今の政権の強みにもなっているということでしょうね。

佐藤:強みになっていると同時に、常にリスクをはらんでいます。例えば今回の入管法の改正などは、右派も左派も喜ばない、両方から挟まれた法律になっています。

■資本の論理でゆがめられる情報

津田:国が情報を統制するという観点からは、最近「シャープパワー」という言葉が注目されています。武力を使わずに、フェイクニュースなどの工作活動で他国に影響を与える力です。権力が一極集中している国では、ネットを使った世論工作活動が容易なので、中国や東南アジアの為政者たちはそれなりに効果を挙げている、と言われています。その状況はロシアも同じでしょうか。

佐藤:必ずしもそうではありません。ロシアは帝国。だから、情報はすべて政府の掌中にあるため、すべてをカッチリと管理しようとしないんです。情報専門の特別予備役があちらこちらにいますし、通信網も事実上、一社が握っています。オペレーターもFSB(連邦保安庁=秘密警察)で訓練を受けた人間しかいません。すべての根っこを握っているから、ターゲットを決めて、そいつだけ見ているわけです。

津田:プラグマティズムで運用しているんですね。今回の著作『情報戦争を生き抜く』で詳しく書きましたが、中国では、そもそも情報が政府によってゆがめられているので、フェイクニュース、あるいはヘイトスピーチの問題は、基本的に起きていないんです。中国のウェイボーなどのSNSでも同様の状況です。皮肉なことに、「インターネットのあるべき姿」が実は中国にあるんじゃないか、と思えるような現実があります。そう考えると、ネットの情報汚染は、GAFA(グーグル<Google>、アップル<Apple>、フェースブック<Facebook>、アマゾン<Amazon>)などを中心にした企業の“カネ儲けのためのビジネス”から起きているのではないか、と感じます。

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“ロシアゲート”問題は思想闘争でなく実利?