すると、前に検索したサイトでは満室だった口コミ評価4.7点の温泉宿に、今調べているサイトでは空室が出ていることに気づいた。口コミも怪しそうじゃない。価格も予算内で部屋に露天風呂までついている。「空室はあと1室!」と書いてあるから、急いで予約をしようと手続きを開始した。部屋のタイプは洋室がいいか和室がいいか、料理のメインは肉にするか魚にするか、特別キャンペーンの26種類から選べる浴衣はどんな柄にするのか、移動手段は車か電車か、到着の時間は何時か……宿泊の予定は1カ月も先なのに、やけに選ばなければいけないことが多い。なんとか選び終えて名前、住所、電話番号、クレジットカード番号を入力して「予約」ボタンをクリック! すると画面に出てきたのは「申し訳ありません、ただいま満室です」の表示。「なんだ! 手続きしている間に他の人に予約されたのか!」と、どっと疲れが出る。

■宿選びに疲れ、旅行自体が面倒に……

 結局、不安ながらも、最初に見つけた少し口コミが怪しそうな宿を予約。「まあ、大丈夫だろう」と思っていた1週間後、やっぱり不安で通勤中に予約した宿を検索してみると、自分が予約したときよりも3000円も安い値段で同じ宿に空室が出ていた。驚いてサイトに行って改めて口コミを見ると、2日前に書き込まれた「となりのホテルの改修工事の音がうるさいです」というコメントが目に入った。価格もいい加減だし、不愉快になってそのままキャンセル。休み前で仕事もばたばたと忙しくなってきた。また宿を探して、選んで予約するのも面倒だ。なんとなく温泉宿に行きたい情熱も衰えてしまい、そのまま旅行の計画は放置してしまっている。

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 旅行に限らず、こんな悲しい買物体験をした人はいないだろうか。いまの時代、スマホを使って自分でなんでも比較検討できる。便利になったはずなのに、かえって「選ぶ」のに手間がかかる。

 せっかくの旅行。気負いすぎては、結局ストレスをためてしまうだけかもしれない。

山本泰士(やまもと・やすし)
2003年博報堂入社。マーケティングプランナーとして各種企画を担当。2015年より博報堂買物研究所で「欲求流去の時代」「ミレニアル家族の新・買物行動」などの買物意識・行動の未来予測を行う。『なぜ「それ」が買われるのか?』を執筆。