ただ、それでも長期的に見ると良い面ばかりでもない。石川慎吾、重信慎之介、立岡宗一郎といった中堅クラスの選手の出場機会が減り、世代交代が進まないことが一つ。そして炭谷、丸と二人のFA選手を獲得したことによって人的補償での選手流出も大きな痛手になるのだ。人的補償のプロテクト枠は28人だが、実績のある選手が多い巨人でこれからの成長が期待される有望な若手選手が漏れることは大いに予想される。

 投手では貴重なサウスポーである中川皓太、池田駿、大江竜聖、野手では実績のある山本泰寛、二軍の主力である和田恋、松原聖弥などが外れる可能性もある。2013年オフに広島から大竹寛を獲得した際には一岡竜司が人的補償で移籍し、今では完全に一岡の方がチームにとって欠かせない存在となっている。今回のFAでも“第二の一岡”が西武、広島に流出することも十分に考えられるだろう。

 では、巨人はどのような道を目指せば復活を遂げることができるのだろうか。それにはやはり原監督がかつて行ったような積極的な若手の抜擢と育成が欠かせない。二度のリーグ三連覇を達成した第二次政権では小笠原道大、ラミレス、村田修一、杉内俊哉などの外様の選手の活躍もあったが、ドラフト上位で獲得した坂本勇人、長野、内海哲也、西村健太朗、澤村拓一、菅野智之がしっかり戦力となり、また山口鉄也、松本哲也といった育成出身の選手も見事な活躍を見せていた。今シーズンのレギュラー陣を見てもその遺産で戦っている印象が強く、生え抜きで中心選手にとなっている新しい力は岡本和真くらいしか見当たらない。岡本に次ぐ新戦力を発掘し、育てることが覇権奪回には必要不可欠であろう。

 最初の監督就任時には43歳だった原監督も来年で61歳を迎える。年齢を考えても長期政権の可能性は低く、このオフの補強を見ても早期に結果を残すことが求められているがゆえの焦りが見え隠れするのが現状である。再び強い巨人を復活させるためには自分が監督を退いた後にチームが黄金期を迎えるくらいの気持ちが必要ではないだろうか。我慢が必要な若手の抜擢、時間のかかる選手の育成にどこまで本腰を入れて取り組めるかに注目したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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