委託費の内訳は、「人件費」、「事業費」(給食費、保育材料費など)、「管理費」(職員の福利厚生費、土地建物の賃借料など)の三つで、人件費が8割を占める。委託費は、もともとは、「人件費は人件費に」「事業費は事業費に」「管理費は管理費に」という使途制限がついていた。

 それまで保育は公共性の高さから、私立の認可保育所は社会福祉法人しか設置が認められていなかった。しかし、待機児童が増えると、公立と社会福祉法人だけでは需要に追い付かず、設置者の規制緩和が求められた。ただ、人件費8割では営利企業にとって利益を出しづらい。そこで2000年、国の通知によって、株式会社などの参入と同時に委託費の使途が大幅に規制緩和されたのだ。

 委託費の弾力運用は、費用の相互流用だけでなく、同一法人が運営する他の保育施設や保育関連事業への流用、新しく設置する保育所の整備費、積み立てなどにも回すことができるようになった。保育所の運営にとってある程度の自由は必要だが、それにより、人件費を搾取するようなブラック保育所を許す構造を作ってしまった。

 保育所が実際にどのくらい現場の保育士に人件費をかけているのかを知る手がかりとなるのが、東京都が保育施設から集めている財務諸表だ。東京都は、2015年度から独自に保育士の処遇改善費「東京都保育士等キャリアアップ補助金」を始めている。この補助金を受けている保育所に対して、人件費比率や金額などを明記した財務諸表の提出を義務付けている。

 そこには、「園長・事務員・事務長・用務員」を除く、「保育士・保育補助者・栄養士・調理員」などの保育従事者の人件費(以下、保育者人件費)という、現場の保育者に限った人件費比率が記されている(法定福利費は含まず、賃金部分で計算)。この財務諸表は、情報公開の開示請求の対象になることが前提とされている、全国でも極めて珍しい例となる。それを調べたところ、人件費比率が著しく低い保育所が多く見られた。そこには、大手が名を連ねる。

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低い株式会社の保育士人件費比率