前田の契約の良い点は、球団にとってリスクが少ないため、双方にとって都合のよい長期契約が交わせるということ。また、ベースの給料は年俸が高騰するメジャーリーグでは安いと思われるかもしれないが、開幕ロースター入りで15万ドル(約1700万円)、先発15試合で100万ドル(約1億1000万円)など普通にプレイしていれば達成可能なものが多い。ローテーションで1年しっかり回ればインセンティブによってベースをはるかに超える金額を稼ぎ出すことも可能なのである。加えて、その大半をインセンティブが占めることで、選手のモチベーションは下がりにくく、契約後に選手が努力を怠るというデメリットも避けることができる。

 今年の前田は、シーズン途中にリリーフにコンバートされた影響で、先発を想定して結ばれたインセンティブを獲得することができないというデメリットも生じた。しかし、これに関しては最初の交渉時にあらゆる可能性を考えて、選手にとって不利にならないような取り決めをすれば解決できるはずだ。

 今季のオフも、ブライス・ハーパー外野手(前ナショナルズ)や、マニー・マチャド内野手(前ドジャース)など、今後も活躍が見込めるスター選手がFAとなり、総額3億ドル(約342億円)を超える長期契約を結ぶと予想されている。現在の状況を考えると、今後も選手に有利な契約がなくなるとは考えにくいが、あまりにも選手側が有利で球団側が不利な契約は、ファンも望んではいないはず。もちろん球団側が有能な選手を引き留めるため長期契約をオファーすることは否定できないが、あくまで毎年の成績に応じて年俸が変動する“フェア”な契約体系が新たに登場することを望みたい。(文・石原幸晶)

※文中の円換算の金額は全て現在のレートで算出した。