「おじちゃま」と寅さんを呼んだゴクミが帰ってきた (3/3) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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「おじちゃま」と寅さんを呼んだゴクミが帰ってきた

連載「あの人ってば。」

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矢部万紀子dot.#矢部万紀子
記者会見で笑顔の後藤久美子と山田洋二監督(c)朝日新聞社

記者会見で笑顔の後藤久美子と山田洋二監督(c)朝日新聞社

「男はつらいよ!寅次郎紅の花」の撮影現場 浜辺に立つ、左から寅さん役(渥美清さん)、リリー役(浅丘ルリ子さん)、満男の恋人・泉(後藤久美子さん)(c)朝日新聞社

「男はつらいよ!寅次郎紅の花」の撮影現場 浜辺に立つ、左から寅さん役(渥美清さん)、リリー役(浅丘ルリ子さん)、満男の恋人・泉(後藤久美子さん)(c)朝日新聞社

矢部万紀子(やべまきこ)1961年三重県生まれ、横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』

矢部万紀子(やべまきこ)1961年三重県生まれ、横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』

 若い女子だった当時の気持ちを少し分析すると、「おじちゃま」に「媚び」を感じていたのかもしれない。「最初から話すと長くなるわよ」という泉の台詞に、寅さんが「いいよ、いいよ、長いの好き。おじちゃま、ヒマだから」と返し、そんなやりとりには笑わせられながら、透けて見える「美女に弱い男」という構図がイヤだった。そんな気もする。

 1996年に渥美さんは亡くなり、22年経って「男はつらいよ」復活会見が開かれた。後藤さんは、変わらず美しかった。憂いではなく、強さをたたえていた。

「ジュネーブの自宅に山田監督からお手紙が届きまして」と言い、ニッコリ微笑んだ。そして隣に座る監督の方を向き、一瞬手を伸ばし、すぐに戻した。

 二人の前にはテーブルがあり、後藤さんの手がどう動いたかは映らなかった。だけど、「ねっ、お手紙、下さったでしょ」。そんな感じの手だった。きっと監督の手に一瞬触れたと思う。

 それを見て、思った。「おじちゃま」は、寅さんを癒やす言葉だったんだなあ、と。

 体調が悪化してからも、寅さんを演じ続けた渥美さん。死の影がひたひたと近づいていたのは、渥美さんであり、寅さんでもあった。そんな男に、美少女が走って近づいてくる。「おじちゃまー」と叫んで、胸に飛び込んでくる。いつもの憂いは消え、明るさだけを連れている。それは、癒やしに違いない。

「おじちゃま」と呼ぶ泉ちゃんに寅さんが癒やされたように、二つ返事で駆けつけた後藤さんに、山田監督が癒やされている。

 一瞬の手でそう思い、「おじちゃま、許す」。そう思ったのは、私が年をとったせいだろうか。(矢部万紀子)


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矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)1961年三重県生まれ、横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』

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