つまり日本の会社は日本の論文に学ぶよりも米国の論文に学ぶ傾向があるということだ。一方、米国はもちろん米国の論文が最も重視されている(米国の6割超の特許は米国の論文がもとになっている)が、自国以外の論文も使えるものは使う、という傾向がありそうだ。

 日本経済新聞(10月23日付朝刊)によると、今年のノーベル医学生理学賞を受賞する本庶佑・京都大学特別教授は「日本の大学には良いシーズ(種)があるのに、(日本の会社は)外国の研究所にお金をたくさん出している。全く見る目がない」と記者会見で語ったという。

 グルーバル競争の時代である。米シリコンバレーを筆頭に優秀な人材が集まっているという地域にネットワークを張り巡らせ、新しい成長のシーズを探すことはとても大切だ。だがその傾向が行き過ぎれば、足元に存在する良いシーズを見逃してしまうのではないかと心配だ。「日本の競争力は下がっている。日本の大学と提携しても意味はない」などと経済人は思い込んではいないだろうか。

 帝人を創業した秦は、欧米の企業や学者に支援を求めたが、かなわなかった。その末に自分たちが持っていた知恵と努力で突破口を見つけた。今、掌中にあるシーズを評価せず、隣の芝生は青いと外ばかりに目を向けていては、掌中のシーズさえも零れ落ちかねない。
(Gemba Lab代表 安井孝之)

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安井孝之

安井孝之

1957年生まれ。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京、大阪の経済部で経済記事を書き、2005年に企業経営・経済政策担当の編集委員。17年に朝日新聞社を退職、Gemba Lab株式会社を設立。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。

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