ところが、直後、日本ハムが陽の交渉権を獲得したというアナウンスが流れる。王監督は怪訝そうな顔つきで、「当たったのはこちらだ」と抽選用紙を掲げてアピール。これを受けて、アナウンスも「交渉権はソフトバンク」と訂正されたが、会場は「当たったのは一体どっち?」とざわつきはじめた。

 さらに辻内を外したと思った堀内監督も、「おかしいな。オレのに『交渉権確定』って書いてあるけど……」と疑問を抱き、日本ハム・高田繁GMに抽選用紙を見せると、「当たってるやん!」。事態はますます混乱した。

 NPBが確認したところ、辻内は巨人、陽は日本ハムが当たりと判明。かくして、再訂正のアナウンスが流れることになった。

「小さいころから巨人ファンだったのでうれしい!」と喜びを爆発させた辻内に対し、日本ハムと知った陽は「何でこんなことになったんだろう」と大ショック。王監督も「どうしても欲しい選手だったので、錯覚してしまった」とすまなそうな表情だった。

 しかし、満願叶った辻内は1軍登板のないまま退団。意中の球団ではなかった日本ハムに入った陽は、13年に盗塁王を獲得するなど、2人は入団後に明暗を分けた。

 15年のドラフトで、ヤクルト・真中満監督が、阪神と競合の高山俊(明大)を当てたと勘違いし、「慣れ親しんだ神宮で一緒に頑張ろう」とエールを送ったハプニングも記憶に新しい。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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