数日前、会社側から、金子が右肘の遊離軟骨を理由に日本選手権登板を回避するという連絡が入ったことが発端だった。その後、球団側は念のため、金子に病院で検査を受けさせ、「翌年以降の投球に支障なし」の診断が下っていた。だが、報告を受けていなかった小泉社長が先走り、ドラフト実行委員会の席で契約しない可能性を口にしたことから、「何を勝手なことを言い出すのか」と出席者から非難が相次いだ。

 実は、同年のオリックスは、近鉄と合併したばかり。当初、ドラフトは4巡目から参加という条件だったが、9月27日の実行委員会で新規参入球団(楽天)とともに1巡目からの参加が認められた。しかし、出遅れている間に、自由獲得枠候補の久保康友(松下電器)がロッテに内定。「即戦力が欲しい」という現場のニーズから急きょ金子が浮上し、11月9日に内定したばかりだった。それから1週間も経たないうちに、内定取り消しでは、プロアマ間の関係も悪化しかねないし、シャレでは済まされない。

 その後、担当スカウトが金子に電話で事情を説明し謝罪。金子も「影響はないです」とわだかまりなく入団した。もし騒動がこじれていたら、オリックスは“未来のエース”を失っていたかもしれず、関係者はさぞ肝を冷やしたことだろう。

 05年の高校生ドラフトでは、くじの当たり外れをダブルで間違えるドラフト版“とりかえばや物語”が起きた。

 注目の156キロ左腕・辻内崇伸(大阪桐蔭高)は巨人、オリックスの競合抽選となったが、抽選箱から封筒を取り出したオリックス中村勝広GMが笑顔でガッツポーズ。これを見た巨人・堀内恒夫監督は、封筒の中身を確認することもなく、すごすごと引き揚げた。オリックス1位指名の一報に、辻内は「素晴らしい球団に獲ってもらってうれしい」とコメントした。

 一方、ドラフト会場では、日本ハムソフトバンクが競合した陽仲寿(陽岱綱・福岡第一高)の抽選へと移り、ソフトバンク・王貞治監督が右手を高々と上げた。台湾出身の陽は、王監督に憧れており、思いが叶ったうれしさから涙を流した。

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オレのに『交渉権確定』って書いてあるけど…