-他に全体的な戦い方として重要だと思う点はありますか?

「これは経験があるからできることだと思うんですが、思い切って捨て試合を作れるかどうかですね。今のクライマックスシリーズの2勝したら終わりの場合は難しいですが、日本シリーズだと3回は負けられる。だから、初戦は相手のデータをとるために使うというのも一つの方法です。広岡さんが監督で初優勝した時は6戦目で無理に決めにいかずに、中盤からはピッチャーを温存させたんですね。その試合は大敗しましたけど、最終戦は松岡(弘)さんが投げて勝った。3勝3敗になっても最後は松岡さんで勝負できるという計算があったのだと思います」

-八重樫さんがご覧になってきた中で短期決戦で活躍した印象深い選手となると誰になりますか?

「外国人選手は強いイメージがありますね。はまるとシーズン以上の働きをすることが結構あります。だから近鉄とやったときはローズは一番マークしました。あとは古田ですかね。普段のシーズンからもそうなんですが、狙い球をはっきりさせて狙うタイプなので中途半端なバッティングをしないんですよ。インサイドを攻められても腰を引かない。日本シリーズになると集中力がさらに高かったと思いますね」

-今年のクライマックスシリーズについては各球団の戦力などを見て、どのあたりがポイントになりそうですか?

「どのチームも絶対的な投手が少ないですよね。確実に計算できるのは巨人の菅野(智之)くらいじゃないですか?短期決戦の時はやっぱり頼れる投手がいる方が戦いやすいんですよ。1位のチームは少し待たされるので、実戦感覚が戻るかという難しさもあります。2位、3位のチームでもうまくはまるようなピッチャーが何人か出てくると、去年のDeNAのようにひっくり返すこともあるかもしれませんね」

 多くの日本シリーズを経験した八重樫氏ならではの話で、どの例も非常に説得力のあるものだった。捨て試合を作れるか、調子の落ちている選手がチームバッティングをできるか、内角をどう攻めるか。今年のポストシーズンもそのあたりに注目すると、さらに楽しみが増すことは間違いないだろう。(文・西尾典文)

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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