中山七里氏(左)と新井見枝香氏
中山七里氏(左)と新井見枝香氏

ホワイトボードに書かれた『闘う君の唄を』のプロット解説
ホワイトボードに書かれた『闘う君の唄を』のプロット解説

 啓文堂書店文庫大賞にもノミネートした注目作『闘う君の唄を』(朝日文庫)と『中山七転八倒』(幻冬舎文庫)を刊行したばかりの作家の中山七里氏が、三省堂書店神保町本店の名物書店員・新井見枝香さんを司会に迎え、プロットの立て方や原稿の書き方など作家生活8年で培ったノウハウを赤裸々に語ったトークイベントの様子を特別にお送りする。

【ホワイトボードに書かれた『闘う君の唄を』のプロット解説】

■連載の締め切りが月に10本量産型を続けられる秘訣

中山七里(以下中山):長編ミステリーを書くとき、僕は三日でプロットを作っちゃうんです。テーマを考えて、それからキャラクターとストーリーを考えて、最後に考えるのがトリック。この、演繹的なやり方だと、最後のトリックが思いつかなくても、書き始めることができるんですよ。

『闘う君の唄を』ですが、これは最初にオファーをいただいたときには、デビュー作の『さよならドビュッシー』のように、秘密を抱えた健気な女の子を主人公にしてほしい。それから小説のジャンルを超越したようなどんでん返しがほしいという話をいただきました。

 そこで、闘う女の子を主人公にするんだったら、敵をどういう風にしようかと考えました。で、明確な個人を敵役にすることは簡単なんですけど、話に広がりが出ないので、「善人の悪意」ということを考えたんですね。「善人の悪意」ってどんなものかと言いますと、要は野次馬のことです。相手の立場だとか、風向きでコロコロ言うことを変える人、そういう人は野次馬なだけで、本来は善人なんでしょうけれど、でも、そういう態度で接される本人にしてみたらただの悪意でしかない。こういう対立を軸にしようと思いました。

 だいたい原稿用紙500枚で一冊の本になると考えて、主人公が一人だとしたら、主なキャラクターは主人公を含め5人まで。もちろん、5人以上いても書き分けはできます。ただ、それを読んだときに、誰が敵か味方か、どういうキャラクターで、どういう対立をしているのか、5人以上だとわかりにくくなると思うんです。主人公、主人公と対立する人間、野次馬、キーマン……。で、どのように物語を回していこうかなというときに、中島みゆきさんの「ファイト!」がCMで流れているのを聞いて、歌詞をずっと読んでいたら、プロットが完成しました(笑)。

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作品を量産するために中山七里さんがやっていること…