茨城県在住の会社経営者、岡本義朗さん(仮名・65歳) は、2012年夏ごろ、字が書きにくい、ボタンがかけられないなど、手の使いにくさを感じるようになった。そのうち足にも症状が出て歩きにくくなり、仕事に支障を来すように。近くの整形外科を受診したところ、「後縦靱帯骨化症」と診断され、同年10月に筑波大学病院整形外科を紹介された。

 後縦靱帯骨化症とは、背骨の椎体骨を上下につなぐ「後縦靱帯」が厚くなり、骨のように硬くなる(骨化する)病気である。骨化した後縦靱帯が脊髄を圧迫し、神経組織が障害されることで、感覚障害や運動障害などの神経症状を引き起こす。最初は手のしびれや痛みなどの症状から始まり、進行すると、手指を動かしにくい、足がしびれる、歩きにくいなどの症状が起こる。

 40代ごろから発症するが、60代以降に多い。原因には、遺伝的因子や糖尿病、肥満、性ホルモンの異常など複数の要因が挙げられる。最近の研究では、特定の遺伝子が発症に関与していることもわかっている。15年1月から指定難病として医療費助成の対象となった。毎年、新規に認定される患者数は約5千人にのぼる。

 骨化があってもすぐに症状が出るわけではなく、全てが進行性とは限らない。無症状の場合や、症状があっても軽く、進行性でない場合は、鎮痛剤や固定装具などによる保存治療が中心となる。

 ただし、進行性の場合には、自然に回復・治癒することはない。なかには症状がないまま骨化が進み、ちょっとした転倒や交通事故などをきっかけに、急に麻痺などの重い症状が出現することもある。現在のところ、骨化を止める薬や神経の障害を改善する治療法はないため、症状により日常生活に支障を来す場合は、手術をおこなう。

 手術には、背中側から神経の通る脊柱管を広げる「後方法(椎弓(ついきゅう)形成術、後方除圧固定術)」と、首の前側から骨化部位を摘出する「前方法(前方除圧固定術、骨化浮上術)」がある。手術方法は、骨化の位置、大きさや形態、患者の症状、年齢などにより決められるが、一般的には後方法が選択されることが多い。

暮らしとモノ班 for promotion
もうすぐ2024年パリ五輪開幕!応援は大画面で。BRAVIA、REGZA…Amzonテレビ売れ筋ランキング
次のページ
新しい治療法も登場