■キャリア官僚の無責任さが主因

 なぜ、こんなことが起きたのだろうか?

 水増しの背景には、いくつかの要因があるが、一番大きいのは、障害者雇用を担当する「キャリア」官僚がこの問題に無関心だったということだ。障害者雇用を増やしても出世につながらないので、ある意味「雑務」扱いし、現場のノンキャリア官僚に採用を任せてしまっていたというのが実態なのだ。
 
 私の官僚時代の経験からは、各省庁などの現場ではこんなことが起きていたのではないかと推察される。

―― 担当のキャリア官僚は年に1、2回、現場のノンキャリ職員から上がってくる障害者雇用についての報告を受ける。そこでは、こんな会話が交わされる。

ノンキャリの担当者:実は、障害者の法定雇用の目標が達成されていません。

キャリア上司:こんな問題があるなんて、引き継ぎでは聞かなかったなあ。だけど、問題じゃないか。どうするんだ!?

担当者:去年も同じでしたが、前任の〇〇部長は、最後は仕方ないなということになりました。

上司:だけど、国の機関ができないとなったら大問題だぞ!

担当者:いえ、もうずっと前から同じ状態ですけど、大きな問題になることはありませんでした。

上司:でも、やる気になればなんとかなるんじゃないの?

担当者:いえ、これは大変なんです。そもそも、そんなに簡単に働ける障害者は見つからないんです。毎年いろいろ手を尽くしてますが、まず、無理なんです。

上司:そうなの? そうかあ。それで、絶対に問題にはならないんだよな?

担当者:絶対にということはないですけど。少なくとも今までは全く大丈夫でした。他の役所の担当者とも情報交換してますけど、みんな同じ状況です。

上司:みんなで渡れば怖くないということか。他の仕事も大変だしな。こればかりやってるわけにもいかんから、じゃあ、まあ、なるべく増やすようにして、目立つようなことにならないようにしてくださいよ。

担当者:わかりました。横並びも見ながら、おかしなことにはならないように気を付けます――

 というようなことが起きていたのだろう。

 違法な水増しが生じたのは、時々、厳しいキャリア上司が来て、何が何でも目標達成しろという命令だけ出して、あとは放置する。そうすると、現場では、障害者手帳は持ってないけど実質的には障害者だから、来年までには手帳をもらうということにしてカウントしてしまおうとか、退職した障害者の名前を借りようというような、より悪質な手口を次々と開発していくことになる。

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違法な水増しが起きる”構造”とは