■キャリア上司は1年か2年で異動

 こうした事態を助長する構造問題に、キャリア官僚は1~2年で異動になるということがある。1年か2年で人事異動するたびに「未達成」の報告が新任のキャリア官僚に行われるが、再び「来年こそは目標をクリアせよ」との形だけの指示が繰り返され、あとは放置される。そんなことが何度も続いて不正な水増しが常態化したのだ。

 私も実はある独立行政法人に出向し、企画・総務担当の理事として、障害者雇用の問題に直面したことがある。かなり時間が経ったので、記憶が定かではない部分も多いのだが、ある時、部下から「目標未達」の報告が上がってきたので、驚いて、すぐに達成しようと動いた。しかし、実際にやってみると、採用業務はかなり難しい。

 まず、私は、この分野の専門ではなかったので、ほとんど勝手がわからず、どうすればいいのか見当もつかない。地域の障害者施設のアドバイスを仰ぎ、就業希望者がこなせる仕事を準備した。例えば、近所の施設の知的障害者の中には、花の手入れに向いている人がいると聞けば、植栽を花壇にして花作りをしてもらうというような工夫をした記憶がある。その独法が運営する宿泊施設のシーツ交換の業務や、事業所内の郵便や資料の配達業務などに障害者を採用する、というようなこともやった。それでも、私が採用できた障害者は10人にも満たなかったのではないかと思う。

 そして、大きな成果を出す前に就任から1年で本省に異動してしまった。もちろん、その間、本省の幹部との間で、この問題について話をすることは一度もなかった。彼らは何の関心ももっていないのだ。それでも、障害者の方に元気な声でおはようございますと挨拶され、他の職員にも職場が明るくなりましたねと言われたり、一心不乱に仕事に集中している姿を見て感動しましたという声が聞けたときは、本当にうれしかった。

 その時の経験で言えば、障害者の採用業務は片手間でできるような仕事ではない。

 それだけに官邸が目標達成を指示しても、短時間で雇用目標が達成できると考えるべきではない。より本格的な対策が必要だ。

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総理の言葉に官僚が動かない理由