実は、この事件には伏線があった。この日は巨人有利の判定が相次ぎ、広島側は何度も悔しい思いをした。8回にも先発・高橋建が降板した際に、ボールボーイに返球した行為が、「球審に向かって投げた」として、退場処分を受ける。そして、“侮辱行為”の証言者となったのが吉本塁審だったのだ。

 高橋退場劇の後味の悪さが覚めやらぬときに、今度は三塁タッチアウトをセーフにされ、さすがの新井も堪忍袋の緒が切れたようだ。

 山本浩二監督も「あれだけ選手が怒るということは、主張したとおりなんや。しっかり見てくれよ。(新井の)グラブにスパイクの跡がついとる」と怒りをあらわにしたが、疑惑の判定については、ほとんど論議されることなく、新井は1試合出場停止の処分を受けた。これが20年間で唯一の退場劇である。

 2017年、球団史上最年長、40歳2カ月で開幕戦4番を務めた新井が、まさかの本盗を決めたのが、4月8日のヤクルト戦(マツダスタジアム)。

 0対0の2回2死一、三塁、打者・石原慶幸の3球目。一塁走者・安部友裕が二塁を狙った際に、捕手・中村悠平の二塁への送球が中途半端に緩くなった隙を突いて、三塁走者・新井がスタートを切る。ワンバウンドになった送球をセカンド・山田哲人が捕球した直後、左手で本塁ベースを掃くようにして、見事決勝点を挙げた。

「河田(雄祐)コーチの指示どおり、動いただけです。(三塁に到達したとき)こうなったらこうだよ、というのを事前に言ってくれていた。勇気もあるけど、それが一番大きかった」

 新井の本盗は、00年9月13日の中日戦、15年9月2日の阪神戦に次いで3度目だが、40歳以上の本盗は、1973年8月15日のロッテ・アルトマン(当時40歳)以来、44年ぶりの珍事となった。

 一方、ハッスルプレーが思わぬ“悲劇”を生んでしまったのが、同年8月27日の中日戦(マツダスタジアム)。1回表1死、広島の先発・岡田明丈が2番・谷哲也を三ゴロに打ち取った際に、安部の一塁送球がそれ、一瞬ヒヤリ。しかし、ファースト・新井が体を一杯に伸ばしてガッチリ捕球し、2死となった。

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「よっしゃあ!」とハイになった新井さんだったが…